東工大ら,電気分極を制御し負熱膨張も実現

東京工業大学と神奈川県立産業技術総合研究所の研究グループは,バナジン酸鉛(PbVO3)の一部をクロム(Cr)に置換して,電気分極の大きさを制御することに成功した。またこの物質が応力によって結晶の方位が変化する強弾性や温めると縮む負熱膨張を示す事も確認した(ニュースリリース)。

陽イオンと陰イオンの重心が一致しない極性の結晶構造を持つ化合物は,強誘電性や圧電性など,有用な性質を示す事が期待されている。代表的な例は,チタン酸鉛で,正方晶ペロブスカイト構造の,縦の長さが横の長さの1.06倍という,縦に伸びた構造歪みを持つ。

このため,電気分極の値が57µC/cm2と,多くの電荷を貯めることができ,強誘電性,圧電性を示すほか,昇温による強誘電体から常誘電体への転移で,体積が収縮する負熱膨張を示す。負熱膨張物質は,光通信や半導体製造装置など,精密な位置決めが求められる分野で,構造材の熱膨張を補償(キャンセル)するのに使えると期待される。

バナジン酸鉛は,チタン酸鉛と類似の結晶構造でありながら,縦横比(c/a比)が1.23と巨大な構造歪みを持ち,電気分極の大きさは101µC/cm2に達することから,チタン酸鉛を凌ぐ性能を有すると期待されている。

しかしながら,大きすぎる構造歪みが障害となって構造の変化が起こりにくく,電場によって電気分極が反転する強誘電性や,昇温による常誘電相への転移に伴う負熱膨張は確認されていなかった。

研究グループは今回,バナジン酸鉛を構成するバナジウムについて,その一部クロムで置換する事で,c/a比を1.07までの任意の値に低減することに成功した。

さらに,大型放射光施設SPring-8での放射光X線回折実験を組み合わせた精密構造解析を実施したところ,電気分極も53µC/cm2にまで制御でき,また,応力によって構造歪みの方向を変えられ,強弾性が起こることを確認した。さらに,チタン酸鉛の1%を上回る,6.6%の体積収縮を伴った負熱膨張が起こる(つまり加熱で縮む)ことも確認した。

この成果では,極性のペロブスカイト化合物の結晶構造歪みを制御する手法を明らかにした。この手法を応用することで,バナジン酸鉛と同様の結晶構造を持ち,有害な鉛を含まないことから強誘電体,圧電体,負熱膨張材料の母物質の候補として注目される,コバルト酸ビスマス等の化合物の機能性材料化につながるとしている。

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