理科大ら,レーザー蒸着で隕石由来磁性材を作製

東京理科大学らは,パルスレーザー蒸着装置を精密制御し,隕石に由来する高機能磁性材料L10-FeNiの作製技術を開発した(ニュースリリース)。

希少資源の枯渇やエネルギー問題の深刻化を背景に,低環境負荷で高性能な磁性材料の実現が求められている。「L10型FeNi規則合金(L10-FeNi)」は,鉄(Fe)とニッケル(Ni)が原子スケールで規則的に並んだ特殊な構造をもち,磁気モーメントや磁気異方性と呼ばれる磁気特性に優れている。

近年では分子線エピタキシー法や巨大ひずみ加工法,脱窒素法などさまざまな材料作製手法が報告されており,世界的な研究開発が加速している。 その一方で,L10-FeNiの成長機構には未だ謎が多く,その作製技術には議論の余地が多く残されている。

これまで研究グループは,天然の隕石の解析や電子スピン状態の解析などを行なってきた。今回の研究では,超平坦な薄膜を作製可能なパルスレーザー蒸着法に着目し,L10-FeNiの人工創製を行なった。 パルスレーザー蒸着法は,原子層スケールでほぼ理想的な薄膜を作製できるのが特長。ArduinoTMによるハードウェアの高度化と LabVIEWTM による制御ソフトウェアを開発し,表面形状や膜構成などを精密制御するシステムを構築した。

物性解析は,大型放射光施設SPring-8の「BL46XU」を用いたX線構造解析と,東京大学物性研究所の超伝導量子干渉磁束計,また理科大の原子間力顕微鏡を用いて行なった。一連の解析を様々な試料作製パラメーターについて系統調査し,プロセス条件を最適化した。 その結果,L10-FeNiの形成を確認すると共に,成長温度300℃でL10型構造の形成が最も促進していることを確認した。

この温度は従来法と異なる値で,パルスレーザー蒸着特有の膜生成が起こっていることが示唆される。 表面自由エネルギーの観点から島の形状と結晶構造を議論した結果,パルスレーザーの瞬間的な昇華と高密度の生成核が起源となって,L10-FeNiの形成に至ることがわかった。

研究グループは,今回の研究を通じて,パルスレーザー蒸着がL10-FeNiの作製に有用であることを世界で初めて実証した。 また,L10-FeNiは,レアアースフリーで高い磁気機能を示すことから,次世代のスピントロニクスデバイスや,電気自動車用途の高効率モーターなど,日本の新しい環境エネルギー技術として,様々な社会展開が期待できるとしている。

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