海洋研究開発機構(JAMSTEC)は,米パデュー大学,浜松ホトニクス,東京大学,広島大学と共同で,テラヘルツ(THz)時間領域分光法により,炭酸塩鉱物の結晶構造を高感度に定量できることを明らかにした(ニュースリリース)。
天然に存在する主要な炭酸塩鉱物である高マグネシウム(Mg)方解石,低Mg方解石,アラゴナイト及びドロマイトは,大理石やサンゴ等の地球や生命の骨格を構成する主要鉱物で,その識別や定量は,地球惑星科学をはじめ,医薬,産業分野等の観点からも重要となる。
これまで,これらの炭酸塩鉱物の識別と定量にはX線回折法(XRD)が用いられてきた。近年,結晶格子の振動に起因する吸収特性を感度よく観測できるTHz波領域の吸収分光が可能となり,X線と比べて安全なTHz波を用いた結晶学的解析への応用が期待されていたが,一部の検出例があるのみだった。
そこで研究グループは,0.5~7THzの広帯域THz時間領域分光装置を用いて,天然から得た炭酸塩鉱物(高Mg方解石,低Mg方解石,アラゴナイト,ドロマイト)の分析を試みた。今回研究で用いた全反射計測法は,一般的な装置とは異なり,全反射プリズム,THzエミッタ,およびTHzレシーバが一体化していることが特長。これにより計測環境中の水分の影響を受けずに精度よくサンプルの計測を行なうことができる。
計測の結果,1~6THzに高Mg方解石,低Mg方解石,アラゴナイト,ドロマイトの特徴的な吸収スペクトルが得られることを明らかにした。これは7THzまでの広帯域で計測を行なうことにより,ようやく得られたスペクトルとなる。また,アラゴナイト40%,高Mg方解石30%,低Mg方解石30%の混合物について理論値と測定値を比較したところ,非常によく一致し,測定サンプルにおけるそれぞれの含有率を求めることが可能となった。
さらに,アラゴナイト中の極微量の低Mg方解石(1%以下)の高感度検出も可能であることが判明した。従来法であるXRDを超える感度を実証した。この研究は,例えば過去の海洋環境を解明する際に重要なサンゴ骨格の変質度を評価するための新しい方法として貢献できるという。
研究グループは,今後,今回の研究がTHz波領域における炭酸塩鉱物の指紋スペクトルとして,地球惑星科学分野のみならず,これまでよりも詳細な医薬品中の成分分布,製紙等の充填材の評価,文化財絵画の白色顔料中の炭酸塩成分評価等の幅広い分野への応用に期待できるとしている。