玉川大学は,Y-00光通信量子暗号(Y-00暗号)にデジタルコヒーレント方式を導入し,実験用光ファイバー回線「AMA net #1」の伝送に成功した(ニュースリリース)。
近年,ネットを利用したアプリケーションは,電子マネー等の決済や個人情報のやりとりを含むような重要なサービスにも用いられている。これらのアプリケーションを支える情報通信システムのセキュリティ向上は,重要な社会課題となる。研究グループは,光通信の伝送路の安全性を高めるY-00暗号の研究に取り組んでいる。
今回,研究グループは,送信機で平文データと秘密鍵から217(=131,072)値の異なる光位相をもつ毎秒10Gb/sのY-00暗号を生成した。通常の暗号化を行なわない光信号は,光の振幅と位相の状態を表す複素平面(IQ平面)で0と1を示す2点で信号が表されるのに対して,暗号化によりこの平面で同心円状の217点に信号が配置された。この暗号化された光信号を40kmごとに光増幅を行ない,240km伝送した。
伝送路は,玉川学園キャンパス内に実際に敷設された光ファイバー回線を使った。受信機でコヒーレント受信した後,デジタル信号処理をした。まず,伝送による光信号の歪を補償し,その後,秘密鍵を使って暗号の復号化を行ない,最後に位相の推定・補償を行なうことで,217値の位相を0と1を示す2値の位相に再変換した。
受信した信号のIQ平面での様子(コンスタレーション)では,暗号化された光信号は同心円状に配置されてドーナツ状であるのに対して,復号化により0と1を示す2点に信号が集約される様子がわかった。実用の基準となる通信品質を十分に満たしており,量子雑音による秘匿効果が得られることを理論的に確認した。これにより十分な通信品質と安全性を両立した暗号伝送システムの構築が可能であることがわかったという。
研究グループは,今回の研究から,伝送可能距離は,暗号化を行なわない既存の毎秒10Gb/sの光伝送システムに匹敵することもわかり,今後さらなる長距離の伝送システムへの展開が期待できるとしている。