東大ら,安価な有機半導体からRFID用集積回路を開発

東京大学と,有機半導体技術を用いたデバイスの製造・販売を行なうパイクリスタルは,極めて安価な高性能有機半導体からRFID用集積回路を開発した(ニュースリリース)。
 
RFIDタグやトリリオンセンサーなど,IoT社会の発展には,個体識別やセンサーシグナルをデジタル処理して無線伝送する,超安価なデバイスの大量供給が必要とされる。また現状のシリコン半導体回路の同一品種量産化によるアプローチに対する限界が指摘され,多品種少量生産も可能な新規半導体材料による安価な集積回路の実現が期待されていた。

研究グループは以前,分子2層分程度の厚さしかない極薄単結晶膜をウェーハスケールの大きさに成長して,移動度15cm2/Vs以上の高性能のp型有機半導体トランジスタを実現している。今回,同様の方法で,移動度が3cm2/Vs程度のn型単結晶有機半導体トランジスタを作製して,積層構造によって集積化する技術を確立した。

研究グループが開発した「連続エッジキャスト」法は,溶液を供給するブレードがスキャンされる部位のみに,単結晶有機半導体膜を形成できるため,インク中の有機半導体分子のほとんどが基板の必要個所に結晶膜となって現れる。加えて,単結晶膜の厚さは電子伝導層と同程度のナノスケールであるため,材料の利用効率は,極めて高いという。有機半導体材料の優れた安定性についても確認されているため,安定動作が求められる回路用半導体材料として好適と言えるとしている。
 
研究グループは,今回,厚さ16μmのフレキシブル基板常に有機半導体回路を印刷手法を用いて集積化することに成功した。RFIDタグに用いられる回路の心臓部は,IDを与えるデータを読みだして,連続したデジタルシグナルとし,無線電波を変調して情報を送れる状態にするカウンター回路。

今回,極薄有機半導体単結晶膜によって,1,000個レベルのp型及びn型トランジスタを集積化し,6ビットのカウンターとして動作させることに成功した。これにより,232個程度の個体を識別するためのID情報を自動認識する回路が超安価に得られることを示した。

研究グループは,今後は多数個体の同時認識に対応する回路などにも適用されるよう,集積回路の規模を1桁程度向上させ,また,有機半導体以外の基板材料やプロセス材料の検討により,全チップコストを下げることを計画しているとし,今回の研究により,IoT社会を実現する取り組みを進めることができるとしている。

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