大阪大学は,300ナノ秒時間分解能を持つ探針同期時間分解静電気力顕微鏡を開発し,有機太陽電池表面の電荷の動きを動画で観察することに成功した(ニュースリリース)。
これまで,光や電位パルスを与えて,その後の検出にパルス電圧を用いることで,数十マイクロ秒程度の時間分解能で画像を得た研究例が報告されてきた。さらに高い時間分解能を目指した研究も報告されているが,時間分解能と検出感度は相反する関係にあるため,時間分解静電気力検出が可能であることを示す原理検証にとどまり,画像として実際に電荷の動きをとらえるには至らなかった。
今回,研究グループは,新しい運動学的時間分解静電気力計測法を独自に提案し,静電気力顕微鏡に用いる探針の振動運動と電荷生成の同期をとることにより,時間分解能と検出感度の両立を試みた。カンチレバーの運動と静電気力がかかるタイミングを制御すれば,非常に短い時間幅を持つ試料の状態変化を検出することができ,高速で動くものをとらえられる,つまり高い時間分解能が得られる。
具体的には,高い周波数で振動している探針の動きとパルスレーザー光照射を同期し,さらにパルス列にも変調をかけることにより,300ナノ秒の時間分解能と高い検出感度を両立した。また今回の研究を有機二層膜太陽電池に適用して,表面電荷の動きを動画で撮影することにも成功した。
今回の研究の成功には,高品質の試料作製が大きく貢献したという。ドナー層とアクセプター層の境界が明確に分かれた有機太陽電池二層膜を作成することにより,電荷の再結合過程の観察に成功した。また,カンチレバーの非定常力学応答を定式化することにより,実験データから電荷の寿命を求めることに成功した。
研究グループは今回の研究が,光や電磁的な刺激により生成した電荷を利用する広範な技術分野,特に太陽電池,光触媒,人工光合成,電子写真,有機トランジスタ,電池,コンデンサなどの基礎研究のツールとしての貢献が期待できるとしている。