九大ら,cAMPシグナルの顕微鏡観察手法を確立

九州工業大学と大阪大学は,細胞の集団運動を制御する細胞間情報伝達の動態が,発生の進行に伴って大きく切り替わる現象を世界で初めて発見した(ニュースリリース)。

細胞の集団運動は,胚発生における器官の形成や傷ついた上皮の治癒など,様々な場面で重要な役割を担う現象として知られている。その制御には細胞間情報伝達が大きく寄与するものと考えられているが,詳しいことは明らかではない。

飢餓状態の粘菌細胞はcAMPというシグナル物質に走化性を示すが,cAMPを受容した細胞は自らもcAMPを合成し細胞外に分泌する。分泌されたcAMPは近くの別の細胞に受容され,その細胞の走化性とcAMPの合成・分泌反応を引き起こす。このようにして次々と細胞間でcAMPシグナルがリレーのように伝播していき,それと同時に複数の細胞がシグナル伝播の中心に向けて協調的に移動する現象が起きる。これをcAMPリレーという。

今回研究グループは,cAMPリレーを受け取った細胞内のcAMP濃度変化を高感度な蛍光プローブを用いて検出することで,細胞の集団内でcAMP シグナルが伝播する様子を顕微鏡下で観察する手法を確立した。これにより集合時には細胞間でcAMPリレーが周期的にらせんパターンを描きながら伝播し,それに伴い細胞が協調的に運動する様子を可視化することに成功した。

観察の結果,細胞性粘菌の発生を通じて集団運動の制御に重要と考えられていたcAMPリレーが,実は発生段階によって様式が変化していき,多細胞体形成後はシグナル振動が消失して必須ではなくなるという新たなモデルを示唆していることを見出した。

今回発見した発生段階ごとの細胞間情報伝達の様式の変化は,同一生物内でも集団運動の場面ごとにそれを制御する機構が切り替わるという,集団運動の研究において新しい視点をもたらすものだという。細胞の集団運動は発生やがんの浸潤などにも大きく関わるため,それらの制御機構についても新たな理解につながることが今後期待されるとしている。

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