物質・材料研究機構(NIMS)は,東京大学,新潟大学,理化学研究所と共同で,機械学習(ベイズ最適化)と熱放射物性計算(電磁波計算)を組み合わせ,世界最高クラスの狭帯域熱放射を実現する多層膜(メタマテリアル)を最適設計し,実験にて実証することに成功した(ニュースリリース)。
物体が熱を電磁波として放出する熱放射現象は,波長制御ヒーターや赤外線センサー,熱光起電力発電などの様々なエネルギーデバイスへの応用が期待されている。熱放射エネルギーを無駄なく利用するためには,有用かつ狭い波長帯での熱放射スペクトルを持つ材料が必要となる。
電磁波を自在に操ることができるメタマテリアルによって,これらの要求の実現を目指した研究が盛んに行なわれているが,これまでは経験的に構造を選択して,その性能を評価するアプローチが多くとられており,膨大な候補物質の中から最適な構造を得ることが困難だった。
研究グループは,機械学習と熱放射物性計算を組み合わせることによって,熱放射性能を最適にするメタマテリアル構造の設計手法を確立した。今回は作製が比較的容易なメタマテリアルである多層膜構造を対象とし,3種類の物質を18層重ねて配置する組み合わせの中から最適なものを探索した。
膜厚を変化させたことで,約80億通りにも上る候補構造の中から,熱放射性能を大幅に向上できる最適構造を探索したところ,半導体材料と誘電体が非周期的に並ぶような非直感的なナノ構造が得られた。さらに,この最適メタマテリアル構造を実際に作製してその熱放射スペクトルを計測し,極めて狭帯域な熱放射が実現できていることを実証した。
従来の材料では,熱放射スペクトルの狭帯域化を示すパラメータであるQ値が100を超えることは難しいとされてきたが,今回発見されたナノ構造はQ値200に迫るものであり,大幅な狭帯域化に成功しているという。
研究グループは,今回の研究は,新しい熱放射メタマテリアルの開発において,機械学習が有用であることを示しているとし,無駄な熱エネルギーロスをなくし,所望の熱放射スペクトルを持つメタマテリアルが実現できることによって,高効率なエネルギー利用が可能となり,省エネルギー社会の実現へ貢献できるとしている。