慶應義塾大学,ロート製薬は,クチナシ由来の色素成分「クロセチン」に近視進行抑制に関連する遺伝子の一つである「EGR-1」の発現量を増やす効果があること,近視誘導モデルでクロセチンが近視進行の程度を示す「眼軸長の伸長」や「屈折度数の変化」を有意に抑制することを確認した(ニュースリリース)。
近年,全世界で近視の有病率が増加し,人類の3分の1が近視だと言われている。特にアジア諸国における近視の有病率上昇が顕著で,中国では成人の9割以上が近視と報告され,中途失明原因の第2位となっている。日本においても子どもの視力低下は進んでおり,最近の統計では,高校生の6割以上,中学生の5割以上,小学生の3割以上が視力1.0未満であるという。
従来,近視には遺伝が関与すると考えられてきたが,近年,遺伝だけでなく生活習慣などの環境因子も大きく関与することがわかっている。中でも屋外活動が短いほど近視が進行することがこれまで複数の研究グループから報告されている。
研究グループもこれまでの研究で,屋外環境に豊富にある波長域360-400nmの光が近視進行を抑制することを発見した。この光を浴びると実験近視モデルで眼軸長伸長が抑制され,近視を抑制する遺伝子の一つとして知られている「early growth response 1」(EGR-1)が有意に上昇していることが確認された。
今回,研究グループは,この「EGR-1」遺伝子に着目し,EGR-1遺伝子の発現を高める食品素材のスクリーニングを実施。200種以上の素材の中でもクチナシ由来の色素成分であるクロセチンに,極めて高いEGR-1発現促進効果があることを発見した。
研究グループが開発した,凹レンズを装用させて近視を誘導するモデルにクロセチンを投与すると,近視化の指標である「眼軸長の過剰伸長」ならびに「屈折度数の変化(近視化)」が抑制されることが確認された。さらに,眼軸が伸びて近視が強くなると,見え方(屈折)が変化するだけでなく,網膜の外側にある脈絡膜が薄くなるという現象が伴うが,クロセチンを投与したときは,脈絡膜の変化が抑制されたという。
研究グループは,今回の研究はクロセチンが近視進行を抑制する可能性を示唆する新しい知見であり,この知見を発展させることで,子どもの近視進行抑制に有用な製品の開発に繋がることができるとしている。