名古屋大学は,東京大学,三井化学との共同研究により,人間そっくりな眼科手術シミュレーターに搭載可能な,緑内障手術練習用眼球モデルを開発した(ニュースリリース)。
近年,医学教育の効率化や難手術の効果的訓練が求められており,緑内障手術では眼圧を下げるために白目にあたる強膜の薄切りと縫合が多く施術されているが,練習用の眼球モデルが十分に開発されておらず,医師が基礎学習や術前訓練を十分に行なうことができなかった。
以前より研究グループは,精密人体モデル「バイオニックヒューマノイド」を構築していた。その一環として,眼科手術のシミュレーションに特化した眼科手術シミュレーターと眼球モデルを開発してきた。
今回,研究グループは,緑内障手術に必要な強膜構造を形成することにより,緑内障手術における強膜の薄切りと縫合に対応した中空構造の眼球モデルを開発することに成功した。
具体的には,「厚みが1mmとなる,柔軟かつ薄切りが可能な模擬強膜を中空の球状に成型する」「コラーゲン組織様の模擬的な繊維構造を形成して,剥離性を模倣する」「薄切りした模擬強膜が不用意にちぎれず,めくることが可能で,縫合を可能とする」という要件をすべて同時に満たし,古典的な流出路再建術における強膜の薄切りと縫合が可能な,緑内障手術の練習用眼球モデルを開発した。
研究グループは,ヒトの眼の強膜組織を模倣するにあたっては,ミクロな繊維を豊富に含んだ繊維層を幾重に重ねることにより,強膜に多く含まれるコラーゲン線維の層状構造を再現することを世界に先駆けて試みた。また,繊維層を層状の構造体とするためにエラストマー材料を用いた。
繊維材料とエラストマー材料という,性質が異なる2種類の材料を層状に統合させ,生体を精緻に模倣した構造を設計することにより,ヒトの強膜の感触を忠実に再現した模擬強膜を開発することができたという。
今回開発した眼球モデルは,以前より開発した眼科手術シミュレーターの「Bionic-EyETM」(Bionic eye surgery evaluator:バイオニックアイ)に搭載可能。研究グループは今回の研究により,従来は行なうことのできなかった手技訓練が可能になったとしている。