慶應義塾大学は,科学技術振興機構(JST),東京大学と共同で,層状構造をはがしてナノシートを合成するプロセスを,マテリアルズインフォマティクス(MI)により高収率化する手法を確立した(ニュースリリース)。
MIとは,コンピューターによる情報科学の手法を材料科学に取り入れた学問分野。さまざまな材料を組み合わせて繰り返し実験を行う従来の手法に比べ,新規材料や代替材料の探索などを効率よく行なうことが可能となる。
グラフェンに代表されるナノメートルスケールの厚さを持つ2次元ナノ材料(ナノシート)は,層状に積層した構造をバラバラにはがす(はく離する)ことで合成されてきた。ナノシート材料は,多くの表面を露出していること,柔軟であること,形状に特有な性質を示す可能性など,さまざまな応用展開が期待され,近年注目されている。
しかし,このナノシートを作るための「はがす」プロセスは,層状物質を「こわす」ことでもあり,量産のための収率向上,特性にも関連したサイズや表面の状態の制御を行なうことは容易ではなかった。
研究グループは,無機層状物質の層の間(層間)にあらかじめ有機分子を導入した層状の有機無機複合体を作製し,これをさまざまな有機溶剤へ投入することで,層間の分子と有機溶剤の親和性によって層状物質をバラバラにしてナノシートが得られないかを検討してきた。
今回研究グループは,層状構造を持つ酸化チタンに対し,層間有機分子と有機溶剤の組み合わせを約100通りに変化させた実験を行ない,ナノシートの収率を決定付けている要因をデータ科学的手法の1つであるスパースモデリングにより抽出した。
この学習結果に基づき,層間有機分子と有機溶剤の81通りの未知な組み合わせで,高収率にナノシートが得られる11通りの組み合わせを予測した。この11条件で合成した結果,4条件では10%を超えるさらに高い収率となった。ナノシートを高収率で合成する組み合わせを最少の実験数で得る手法を,世界で初めて実証したという。
研究グループは,今回の研究は,さまざまなナノシート材料の構造制御や応用を加速させる上で重要となるとし,実験科学者もMIを活用することによって,新しい物質・機能の設計や探索を加速させることができるとしている。