愛媛大ら,放射光X線で弾性波速度の測定に成功

愛媛大学と高輝度光科学研究センター(JASRI),滋賀県立大学は,放射光X線を利用したその場観察実験と超音波測定実験の組み合わせにより,マントル中の主要な高圧型鉱物であるCaSiO3ペロブスカイト(CaPv)の弾性波速度の測定に成功した。(ニュースリリース)。

沈み込む海洋プレートは,マントル物質が部分的に融けて固まった玄武岩質の海洋地殻と,融け残りの岩石であるハルツバージャイト岩からできていると考えられている。海洋プレートはマントル中の深さ660km付近の地震学的な不連続面(660km不連続面)付近まで沈み込むことが知られているが,その先の挙動に関しては十分に解明されていない。

これまで愛媛大とJASRIの研究グループは,SPring-8の高温高圧ビームラインにおける強いX線と,独自の超音波技術を組み合わせることにより,マントル深部の高温高圧下での鉱物の弾性波速度測定技術を開発してきた。この研究では,測定する鉱物の多結晶体を高温高圧下で合成した後常圧下に取りだし,それを円柱形に成形したものに対し,別の実験で高温高圧下での弾性波速度を測定する。

弾性波(=地震波)の伝わる速度(V)は試料の長さ(L)と,超音波が試料を通過する時間(t)を用いて V=L/t で決定することができるため,高温高圧下での試料のX線像(レントゲン像)から試料の長さを測定し,同時に超音波をあてて試料を通過する速度を測定することにより,様々な温度と圧力のもとでのVを測定することが可能という。

しかし,CaPvは常圧下に取り出すことができない。今回の研究では,まずCaSiO3成分のガラスをつくり円柱状に加工し,これを高温高圧下でCaPvに変換した後,試料を取り出すことなくそのまま弾性波速度を測定した。

実験はSPring-8で行ない,CaPvの弾性波速度の精密測定を圧力23万気圧・温度1700Kという,マントル深部660km不連続面に相当する条件まで行なった。測定は5回の独立な実験により様々な温度圧力下で行ない,それぞれの実験が互いに整合的なことを確かめた。

これらの結果,CaPvの弾性波速度,特にS波速度がこれまで理論的に予測されていた値に比べてはるかに小さいことが明らかになった。このことから,とりわけCaPvを多く(20-30%程度)含んでいる玄武岩質の海洋地殻物質は,660km不連続面付近まで沈み込むと,周囲のマントル物質に比べて地震波速度が大きく低下することがわかった。

研究グループは,この低速度領域が,この付近に存在する沈み込んだ海洋地殻に由来する,玄武岩質の物質により説明可能なことを示したとし,マントル深部におけるプレートのゆくえの解明において,重要な意義を持つとしている。

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