東北大ら,光子ビームで重陽子の励起状態を観測


東北大学と高エネルギー加速器研究機構は共同で,大強度の高エネルギー光子ビームを重水素標的に照射することで,6つのクォークからなる重陽子の励起状態(ダイバリオン共鳴)の観測に成功した(ニュースリリース)。

世の中のすべての物質の素粒子であるクォークと反クォーク,およびレプトンと反レプトンからできている。クォークや反クォークは単独で取り出すことができず,つねに複数のクォークと反クォークで構成される粒子の中に閉じ込められている。この事実を「クォークの閉じ込め」とよび,複数のクォークと反クォークで構成される粒子の総称を「ハドロン」と呼ぶ。

「クォークの閉じ込め」は実験の技術的な問題によるのではなく,強い力の本質に根ざす原理的問題と考えられている。場の量子論である量子色力学の枠組みで説明できると考えられているが,その機構は未解決問題の一つとなっている。

ハドロンのなかでは原子核を構成する陽子や中性子など核子が最も身近な粒子だが,これらの間に働く核力ですら未だよく理解されていない。1つの陽子と1つの中性子の弱い束縛系として知られる重陽子に,原子核としての励起状態はないが,より高エネルギー状態にすれば1つの粒子の中で6つのクォークが激しく動き回る「ダイバリオン」に変化すると期待されている。

研究グループは今回,大強度エネルギー標識化光子ビームを液体重水素標的に照射し,重陽子の励起状態を生成し,崩壊して発生した2つのπ0メソンと重陽子すべてを検出することでダイバリオンの観測に初めて成功した。

この成果は強い力の重要な性質である「クォークの閉じ込め問題」について新たな知見を与えるもの。さらにダイバリオン共鳴の観測は,ハドロンの中で新たな形態の存在を明らかにしただけでなく,原子核を束縛する核力の理解を深めるとともに,未だよく理解されていない核物質の状態方程式や中性子星の内部構造に対して極めて重要な情報をもたらすとしている。

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