オンセミ,経営戦略とイメージセンサー新製品を発表

Ross Jatou氏

米オン・セミコンダクターは12月5日,同社の戦略を説明する記者会見を東京・日本橋にて開催し,同社の事業ポートフォリオの解説の他,自動車向け画像センサーについて,最新製品の紹介を含めた説明を行なった。

同社は1999年に米モトローラからスピンオフした半導体メーカーで,2000年には株式を公開している。設立当時12億ドルだった売上高は,16件のM&Aを通じて現在約59億ドル,デバイス出荷数700億個となっており,日本にも製造拠点を持つ。オートモーティブ,インダストリアル,通信の3分野を事業の中核としており,売上に対する構成比はそれぞれ,30%,26%,20%となっている。

同社は今後の成長市場として,自動運転用センサー,電化車両向け48Vソリューションなどのオートモーティブ分野,産業用およびデータセンター・5G向けなどのパワーソリューション分野,AIエッジコンピューティングやスマートセンサー,エコシステムなどIoT分野を挙げた。その中で特に同社の強みである車載センシング事業について,同社バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャのRoss Jatou氏が説明した。

同社のイメージセンサーは自動車以外にも多くの分野で採用されている。例えば同社のセンサーを搭載する独ARRIのデジタル映画撮影用カメラのフラッグシップ機ALEXAは,数々のアカデミー作品の撮影に用いられている。また,高信頼性が求められる衛星や探査機にも使われており,地表の衛星写真や木星の接近映像等を撮影してきた実績がある。

車載イメージセンサーシェア(出典:テクノシステムリサーチ)

最も大きなシェアを持つ車載イメージセンサーにおいては,全世界の大手自動車メーカーで採用の実績があり,調査会社によると自動車向けイメージセンサー市場において,2017年の同社のシェアは64.8%と,2位のソニーの14.0%を大きく引き離している。2018年予想においてこの差は更に広がり,同社のシェアは67.6%,対する2位のソニーは12.8%になるとしている。

同社の強みとして,白飛びや黒潰れの少ないダイナミックレンジの広いセンサーが挙げられるが,デバイスの基本性能以外にも,同社が超音波やレーダー,LiDARなど様々なセンサー向け半導体部品を幅広く扱っていることや,ティアワン,ソフトウェアメーカー,ハードウェアメーカーなどの企業ともコラボレーションを手掛けていることで,センサーヒュージョンやアルゴリズムによる,複雑で難解な局面における自動運転にも対応するシステム展開があるとする。

特にソフトウェアの性能はデバイス以上に重要になっているといい,例えば夜間において150m先の人物検出を1/2″サイズのイメージセンサーで行なう場合,2400万画素(ピクセルサイズ1.0µm)のセンサーよりも800万画素(ピクセルサイズ2.1μm)のセンサーの方が検出率が高いという事例を示した。つまり,解像度と検出距離は比例しないことから,同社ではイメージングセンサー同様にソフトウェア開発も重要的に進めていく。

「AR0820」の構造

こうした背景において,今回,同社は新製品となる自動運転向け車載イメージセンサー「AR0820」を発表した。自動車用イメージセンサーでは同社の製品は,性能・実績共に大きなアドバンテージを持つものの,これまで高温化で低照度性能が10%ほど下がるという弱点があったという。今回,この改善に成功し,暗電流は2.3e-となっている。また,積層したASICには機能安全として,ISO 26262コンプライアンスの主要構成要素であるASIL-Bに加え,フォルトインジェクション(不具合対策)機能を搭載している。

「AR0820」と他社製品との比較

同社では自動運転においてセンサーの故障や誤動作は許されないという意識のもと,フォルトインジェクションを実現するために10億時間のロードテストを敢行しており,あらゆる不具合のデータを収集すると共に,これらを自動車メーカーにも納めて情報共有を行なっている。

さらに,自動車はカーシェアなど所有形態の変化により稼働率が上がることを見越し,同社は22時間/日での動作を想定したものづくりを進めている。そのため,製品の長期信頼性を高めるために,カラーフィルタの紫外線によるダメージも対策を始めている。これは太陽光下に晒されたイメージセンサーが焼き付きのようなダメージを負う現象に対処するもので,カラーフィルタとレンズの改良により,既に実用化の段階にあるという。

さらに,イメージセンサーもハッキングの可能性を考慮した対策も始めている。ハッキングの例としては,外部から実際の映像に別の映像を重畳し,AIに状況を勘違いさせることなどが考えられるという。これに対して自動運転向けサイバーセキュリティスタンダード ISO 21434の策定が来年度の公開を目指して行なわれているが,同社ではそれに先んじてパートナー企業と既にソリューションの準備を進めており,プロセッサ側との連携や接続部の強化などを行なっているとする。

最後に,こうした高度なイメージセンサーとLiDARを用いたセンサーヒュージョンのデモ映像を上映した。このLiDARは同社のSiPMを用いたもので,レーザーをマルチショットとすることで最大300mの検出が可能だとしている。このセンサーヒュージョンにより映像中のモヤに隠れた車両を検出する様子が映し出された。

同社の設計部隊は日本にもあり,今回の新製品「AR0820」も担当したという。このイメージセンサーは既にサンプル出荷を行なっており,現在各メーカーにて試験を受けている。同社ではこの製品が2019年から2020年にかけて実車に搭載されるものとみている。

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