島津科学技術振興財団は,第38回島津賞(2018年度)受賞者として,京都大学化学研究所教授の金光義彦氏が選ばれたと発表した(ニュースリリース)。
島津賞は,科学技術,主として科学計測に係る領域で,基礎的研究および応用・実用化研究において著しい成果をあげた功労者を表彰するもの。受賞者には,表彰状・賞牌・副賞500万円が贈呈される。
対象となった研究業績は,「ルミネッセンス分光法による半導体の新規光物性の究明と機能開拓」。光るSiなどナノ構造半導体物質の新たな発光現象を発見し,独自に開発した計測・解析装置を駆使し,その量子状態の解明や光物性・光機能の基礎的な理解に貢献した点や,基礎のみならず発光ダイオードや太陽電池の高効率化などの指針を与えるもので実用面での貢献も大きく,幅広い領域にわたる学術的影響と社会的貢献が高く評価された。
トランジスターなどの電子デバイスには,ケイ素,ゲルマニウム,炭化ケイ素などが使用されるが,それらの本質的な特性により発光材料にはならないと考えられていた。しかし金光氏は,これら電子材料もナノメートルの小さな粒子にすることにより,エキシトン(負の電荷を持つ電子と正の電荷を持つ正孔がクーロン力で結びついた水素原子のような束縛状態)の量子効果を利用して室温で強く可視発光することを発見。ナノ構造半導体は,発光ダイオードなどの光源としても利活用できることがわかった。
また,ナノ粒子やカーボンナノチューブなどのナノ構造半導体について,ひとつひとつの特性が計測できる精緻なルミネッセンス分光を用いることにより,それらの発光特性は光励起される電子と正孔の数に大きく依存することを見出し,発光メカニズムの解明に決定的な役割を果たした。
さらに,太陽電池内での複雑な電子の動きを分光的に可視化できる計測・解析装置の開発と特許取得を行ない,企業と共同で商品化にも成功した。金光氏の先導的研究の成果は,物理学,化学,光・電子工学などの幅広い領域にわたるものであり,学術的・社会的波及効果は極めて高いものになっている。