NTTら,ダイヤモンドからの超放射を実現

日本電信電話株式会社(NTT),オーストリア ウィーン工科大学,国立情報学研究所は,固体量子系からのマイクロ波の超放射を実証した(ニュースリリース)。

原子は,励起状態からもとの状態へ戻るときにエネルギーを光子として放出するが,通常は光子の放出がいつ起こるのか予測することはできない。ところが,原子同士が十分に近くにあるときはひとつの原子が光子を放出すると,そばにある他の原子に影響し,多くの原子が一斉にエネルギーを光子として放出する。これは閃光のように見えると考えられ,「超放射」と呼ばれてきた。

通常の原子集団では超放射を起こすことは不可能で,多くの原子を放射される光の波長よりも短い範囲,つまり,100nm立方に多数の原子を集めることが必要。ただし,そのような状況では原子間の相互作用が強くなり過ぎ,超放射を起こすことは難しい。

研究では,ダイヤモンド結晶内の格子欠陥を人工原子として用いることで,超放射を観測することに成功した。ダイヤモンドの炭素原子に人工的に欠陥を作ると,格子点にある炭素原子が窒素原子で置き換わり,その隣の格子点のひとつが空になっているときを,窒素―空孔欠陥(NVセンター)と呼ぶ。

今回,世界で最も多くのNVセンターを含みながらそれ以外の欠陥が無いダイヤモンド結晶を用いた。NVセンターは原子のようにエネルギーを吸収して励起状態へ遷移する。この遷移エネルギーを与えるマイクロ波の波長は数cmもある。ダイヤモンドとマイクロ波共振器のハイブリッド系の長所により光の波長の領域にたくさんの人工原子を集めることができる。

10の12乗個ほどあるNVセンターをすべて励起状態へ遷移させると,NVセンターがエネルギーを放出して基底状態へもどるには,通常数時間かかる。しかし,超放射が起こると,数百ナノ秒でエネルギーの放射が起き,最初のNVセンターからの光の放出が他のNVセンターから放出を誘発し,マイクロ波の閃光が現れる。

超放射によって放射されるマイクロ波の強度と放射時間は共にNVセンターの数に対して非線形な性質を示すことが期待され,その検証が超放射を実証する上でも重要。だが,実験に用いるダイヤモンド中のNVセンター数を確認するのは難しい。今回,ダイヤモンドが持つ特徴を利用してNVセンターの数を変化させ,非線形性の実証に成功した。

超放射は,一つの光子の放出に多くの光子が誘導的に放射される点で,レーザーと同様の原理を持つ。しかしながら,レーザーでは原子を励起するのに常に多くの光子を必要とするのに対して,超放射は一つの光子が閃光を起こす。超放射の実証は,マイクロ波のメーザーなど固体を用いた多様な量子技術の発展の基礎として重要な成果だという。

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