東大,光による高分子形状リセット法を実現

東京大学の研究グループは,高分子形状をいつでも自在にリセットする新概念を考案し,T・レックス(Topology-reset execution)と名付けた(ニュースリリース)。

異なる形状(トポロジー)の高分子は,異なる物性を示すことが古くから知られてきた。ごく最近になって,高分子のトポロジーを繰り返し組換えることで動的な性質の変化を引き出す研究が注目されるようになった。

研究グループが考案したT・レックスは,UVを照射すると分子鎖中の光応答性部位が切断され,UVの照射をやめると再生する仕掛けをポリジメチルシロキサン(PDMS)に組み込んだ。このPDMSにUVを照射すると分子鎖中の光応答性部位が次々に切断されて,高い反応性の末端を持つ最小単位の直鎖状PDMSが得られる。

次いで,UVの照射をやめると,この反応性末端が別の高分子の末端と反応して分子鎖が長くなる鎖延長と,同一の高分子の末端同士で反応する環化が起きる。また,最終的にはこの反応性末端は全て消費されてさまざまなサイズの環状PDMSが生成する。UVを照射した際に生じる反応性末端は空気中でも安定で,平常の環境中でこのサイクルを何度も繰り返せるという。

さらに研究グループは,環状PDMSにUVを照射して直鎖状PDMSへのT・レックスを施すと,液体状態を維持したまま流動性が著しく低下することを実証した。すなわち,一般に液状物質は損失弾性率(G’’)>貯蔵弾性率(G’)の関係を示し,研究グループが合成した環状PDMSもG’’>G’の関係を示した。

また,放射光X線を組合せた分析からも環状PDMSが均一な液体として振る舞うことを突き止めた。ところが,UVをあてた際の時間変化を調べると,G’’>G’の関係を維持したままG’およびG’’ともに著しく減少した。とりわけG’の低下は大きく,1/10以下すなわち“桁違い”に低下した。また,損失正接(tanδ=G’’/G’)に着目するとUV照射前後で約2から8程度にまで4倍も増加し,UVを消すと元に戻った。

損失正接は,固体または液体らしさを表す指標としても用いられ,値が大きいほどその物質は液体らしいと言える。すなわち,ネバネバな液体である環状PDMSにUVをあてると一瞬にしてサラサラな液体に変わり,光を消すと元に戻ることに対応している。PDMSに対するT・レックスには有機溶媒を用いる必要がなく,市販のブラックライトをあてるだけで,いつでも誰でも簡単にこの変化を引き起こすことができるという。

T・レックスの有効性を実証したPDMSは,日常生活に欠かすことのできない身近な材料でもあり,狙ったタイミングで狙った部分だけ流動性の変わる潤滑油,グリース,および粘接着剤などへの応用が期待されるとしている。

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