京都産業大学は,A型星とよばれる普遍的な恒星について,近赤外線波長域(波長0.9-1.3ミクロン)における世界で最も詳細なライン・カタログを出版した(ニュースリリース)。
宇宙に存在するさまざまな恒星は,そのスペクトル(虹)によって分類され,現在では「ハーバード分類」と呼ばれる分類法が標準となっている。この分類法では,恒星表面の温度が高いものから低いものに順に,O型,B型,A型,F型,G型,K型,M型などと名付けられている。
太陽は表面温度約6000℃で,G型に分類される。特にA型星は最もシンプルな(目立った吸収線の無い)スペクトルのパターンを持っており,赤外線天体観測において,天体の明るさ(エネルギー)の基準,あるいは地球大気による吸収線を天体のスペクトルから除去する際などに頻繁に利用されてきた。
特に後者の目的に利用する際には,A型星のスペクトルがシンプルであることが重要となっていた。しかし,赤外線波長域において非常に細かな吸収線がA型星にも多数存在していることが予想されながら,その詳細な観測・研究は進んでいなかった。
今回研究グループは,やまねこ座の21番星(21Lyn)を高精度・近赤外線高分散分光器WINEREDを望遠鏡に取り付け,極めて精密なA型星の近赤外線高分散スペクトルを得ることに成功した。恒星スペクトルに見られる吸収線は,恒星が早く自転するほど幅が広く,浅くなるため,より微弱な吸収線を検出するためには自転速度の遅い恒星を観測する必要があった。やまねこ座21番星は,こうした条件適合していた。
スペクトル型はA0.5Vと極めてノーマルなものであり,また,自転速度を観測者方向に投影した成分(v sin i)は毎秒19kmと通常観測される恒星としては非常に遅いものだった。そのため微弱な吸収線であっても検出しやすいという利点があった。
観測の結果,微弱な吸収線を含む219本の吸収線をやまねこ座21番星において検出に成功した。検出された吸収線は,水素,炭素,窒素,酸素,マグネシウム,アルミニウム,シリコン,硫黄,カルシウム,鉄といった様々な元素が原因となっている。A型星において近赤外線波長域にこれだけ多数の微弱な吸収線が検出されたのは,世界で初めてという。
これまで同波長域では,今回の研究結果に比べて10分の1以下の波長分解能で観測された恒星スペクトルのカタログしか存在していなかった。研究グループは今回公開したライン・カタログにより,赤外線波長域における地球大気吸収線の除去過程をより精密にすると共に,またA型星それ自体の元素組成比をより精密に決定する研究にも寄与できるとしている。