畿央大,感覚運動と時間的不一致における神経メカニズムを解明

畿央大学は,感覚運動の時間的不一致が,150ミリ秒では身体に対する奇妙な感覚のみが惹起され,250ミリ秒以上の不一致では身体の喪失感や重さの知覚変容が生じることを明らかにした(ニュースリリース)。

脳卒中や脊髄損傷,慢性疼痛患者において,患肢を自己身体の一部と認識できないといった身体性変容の要因の1つには,運動指令と実際の感覚フィードバックとの間に生じる不一致(感覚運動の不一致)が考えられていた。

しかし,感覚運動の不一致による身体性の変容が,どれくらいの時間的不一致により生じるのか,あるいは,その神経メカニズムはどうなっているのかについては明らかになっていなかった。

今回,研究グループは健常大学生を対象に,映像遅延システムの中で手首の曲げ伸ばしを反復させる実験を行なった。映像遅延システムで被験者の手の鏡像をビデオカメラで捉え,そのカメラ映像を「映像遅延装置」経由でモニターへ出力させた。

出力されたモニター映像を鏡越しに見ることによって自分の手を見ることができるものの,映像遅延装置によって作為的に映像出力が時間的に遅らされるため,被験者は「自分の手が遅れて見える」「自分の手が思い通りに動いてくれない」「自分の手のように感じない」という状況に陥ることになる。

今回の研究は,①0ミリ秒遅延②150ミリ秒遅延③250ミリ秒遅延④350ミリ秒遅延⑤600ミリ秒遅延の5条件で手首の反復運動を被験者に実施した。運動中の手関節の運動を電気角度計で計測し,身体に対する「奇妙さ」「喪失感」「重さ」についてアンケートで定性的に評価した。

この結果,動かした手の映像を150ミリ秒遅延させて視覚的にフィードバックすると,「自分の手に奇妙な感覚がする」といった変化が生まれた。さらに250ミリ秒以上遅延させると「自分の手のように感じない」「手が重くなった」という身体性の変容が生じたという。

遅延時間をさらに長くするとそれらの変化が増大した。一方で手関節の反復運動は,動いている手の映像を350ミリ秒遅延させると正確性が低下した。これらの結果から,身体性の変容だけでなく運動制御までをも変容させてしまうということがわかった。

さらに,身体に対する「奇妙さ」においては,150ミリ秒遅延では両側の腹内側前頭前野の神経活動性,600ミリ秒遅延では左の補足運動野と右の背外側前頭前野,および右の右上頭頂小葉の神経活動性が関わっていることが明らかとなった。「喪失感」および「重さ」においては,左の補足運動野の神経活動性が関わり,運動制御には右の下頭頂小葉の神経活動性が関わることが明らかとなった。

研究グループは今回の研究が,脳卒中や脊髄損傷,慢性疼痛患者の病態解明に貢献し,新たなニューロリハビリテーション技術開発に向けた基礎的知見になると期待されるとしている。

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