理研ら,絶縁体-金属相転移のメカニズムを発見

理化学研究所(理研)らの国際研究グループは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を利用し,二酸化バナジウム(VO2)の「絶縁体-金属相転移」は,個々のバナジウムイオン(V4+)が無秩序に動くことで引き起こされることを実証した(ニュースリリース)。

室温では,二酸化バナジウムを構成しているバナジウムイオン(V4+)は周期的な対構造を形成しており,二酸化バナジウムは電気を流さない絶縁体として振る舞う。しかし,温度が上がるとこの対構造が消失してバナジウムイオン間の距離が均等になるとともに,電気を流す金属のように振る舞うようになる,興味深い相転移を示すことが知られている。

この「絶縁体-金属相転移」は非常に高速で起こるため,これまで対構造をなしていたバナジウムイオンが足並みをそろえて同じ方向に同時に動くことによって起こると考えられてきた。

このような原子(イオン)の平均的な位置や動きは,「時間分解X線回折法」によって観測することができる。一方で,固体を形成する個々の原子が無秩序に動いた場合の詳細は,時間分解X線回折法では分からない。そのため,バナジウムイオンの動きが絶縁体-金属相転移にどう関わっているのかは分かっていなかった。

そこで研究グループは,固体を形成する個々の原子の動きに敏感な「時間分解X線散漫散乱法」を用いて,二酸化バナジウムの絶縁体-金属相転移について調べた。X線散漫散乱の強度は構造が無秩序になるほど上がるため,個々の原子が平均的な位置からどの程度ずれているのかを評価できる。

具体的には,二酸化バナジウムに可視領域のレーザー光を照射することでその温度を瞬間的に上昇させ,一定の時間をおいた後にフェムト秒の時間幅を持つXFELを照射してX線散漫散乱の強度を測定した。これにより,絶縁体-金属相転移が進行している最中の二酸化バナジウムの瞬間的な結晶構造をスナップショットのように切り出して観察した。

レーザー光照射からXFEL照射までの時間を変えながら測定したところ,バナジウムイオンの対構造の消失(X線回折強度の変化)とバナジウムイオンの無秩序な動き(X線散漫散乱強度の変化)が同じ時間スケールで変化し,150fs後には変化が完了していることが分かった。

これは,二酸化バナジウムの絶縁体-金属相転移がこれまで考えられてきたようなバナジウムイオンの協奏的な動きによるものではなく,バナジウムイオンの無秩序な動きによるものであることを示しているという。研究グループはこの研究が今後,光誘起超伝導などの応用につながると期待できるとしている。

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