情報通信研究機構(NICT)と大阪大学は,ヒトの立体視力の個人差に対応した神経線維束を明らかにした(ニュースリリース)。
ヒトの立体視は,両眼から入力された視覚情報が脳で処理されることによって実現している。この立体視力には大きな個人差があるが,これまで脳を傷つけることなく定量的に調べる方法が限られていたため,その原因は分かっていなかった。
今回の研究では,立体視力の個人差を説明する神経基盤として,脳の離れた場所同士を結ぶ線維束に着目した。線維束とは,ヒトの脳の中で、軸索と呼ばれる神経細胞同士を結ぶケーブルが集まって束になっている構造のこと。
研究グループは,脳を傷つけることなく計測することができるMRIを用いて,視覚処理に関わる脳の場所同士を結ぶ線維束の構造の違いが,立体視力の個人差と関係するのではないかという仮説を検証した。
まず,拡散強調MRIという手法で得られたMRI画像を分析することで,視覚処理に関わる線維束の位置を求めた。次に定量的MRIという手法で,線維束の神経組織密度を計測した。さらに,MRI実験に参加した実験参加者の立体視力を心理実験によって調べた。
線維束の神経組織密度と立体視力の関係を分析した結果,立体視力の高い参加者は,低い参加者と比べて,右半球(大脳右側)のVertical Occipital Fasciculus(VOF)と呼ばれる線維束の神経組織密度が高いことが明らかになった。さらにfMRI実験によって,VOFが大脳皮質上の奥行情報に反応する領域をつないでいることが示された。
また,VOFは両眼の情報統合を必要としないコントラストの低い画像を区別する課題の成績とは関係しないことも確認した。これらの結果は,VOFを介した視覚野の領域同士の連絡の仕方の違いによって,ヒトの立体視力の違いが見られる可能性を示唆するという。
研究グループは,今回の研究が将来,弱視など立体視と関わる視覚障がいの解明や,立体視力の個人差を考慮した映像提示技術の開発などに貢献することが期待できるとしている。