産業技術総合研究所(産総研)と北海道大学は共同で,RNAの濃度を絶対定量する方法を開発した(ニュースリリース)。
近年,遺伝子関連検査は急速に進歩しているが,検査システムの品質保証やデータの標準化が課題となっている。標準化の課題の一つに,品質の保証された標準試料が未整備という問題がある。そのため,配列も長さも異なるターゲット核酸の数を簡便に直接絶対定量する技術と,その技術を適用した核酸標準物質の開発が望まれていた。
FCSは,微小な測定領域にレーザーを照射し,その領域に蛍光分子が出入りすることで生じる「蛍光強度のゆらぎ」を解析して分子の数や,分子の拡散速度を測定できる手法。原理的には生体分子の分子数を数えることが可能だが,分子数を普遍的な単位である「濃度」に変換するには,測定領域の正確な体積が必要となる。
これまで,レーザー照射領域の形状を仮定し,拡散速度が既知の蛍光色素のFCS測定結果から測定領域の体積を推定していた。しかし,レーザー照射領域の形状の仮定は装置の種類によってしばしば実際と異なることが報告されており,校正方法として十分ではなかった。今回,濃度の認証値をもつ認証標準物質(SRM,CRM)を利用して,正確な測定領域を求めた。
今回の技術では,認証標準物質(蛍光色素)で厳密に校正されたFCS測定装置を用い,蛍光染色したRNA分子を水溶液内で直接カウントして分子数を絶対定量する。さらに,産総研で開発された核酸認証標準物質を用いて,認証値とFCSによる実測値を比較したところ,今回開発した絶対定量分析法が妥当であることが確認できた。
今回開発した技術を応用し,今まで標準物質がなかった多数のターゲットに対し各試験機関で実験ごとに使用する「実用標準物質」を値付けすることで,遺伝子検査の品質保証や検量線を用いる従来の定量法の高精度化が達成され,国際単位系(SI)に関係付けることも可能になるという。
研究グループはこの技術を用いて,遺伝子検査などに利用できるRNAの実用標準物質を作製する。また,対象がRNAに限定されていないので,汎用の分子数定量技術となることが期待され,DNAやタンパク質などの計測に応用する。また,FCSは共焦点蛍光顕微鏡と全く同じシステム構成なので,蛍光顕微鏡画像と濃度の定量値の精密な関連付けが可能となるので,この技術をベースに蛍光イメージング技術の標準化を目指すとしている。