東北大学,住友電気工業,東京大学,物質・材料研究機構,高エネルギー加速器研究機構,東京理科大学は共同で,GaN-HEMTの出力低下をもたらす表面電子捕獲のナノスケールの定量分析および,その抑制機構の解明にはじめて成功した(ニュースリリース)。
GaNとAlGaN界面に電子輸送層として用いたトランジスタ(GaN-HEMT)は,Xバンドやミリ波帯で有望な超高速通信用トランジスタ。GaN-HEMTは実用化されているが,問題として,GaN-HEMTの出力を低下させる電流コラプス現象がある。その原因の一つに,デバイス動作のために発生するゲート電極近傍の大きな局所問題に起因したデバイス表面の電子捕獲がある。
通常,半導体デバイスの動作機構の解明には,巨視的な電気測定評価法が用いられる。しかし,電気測定評価法では,局所的な情報が得られないため,今回のGaN-HEMTの電流コラプス現象に関与する表面電子捕獲の機構を解明することは難しい。
SPring-8では,動作しているデバイスの表面状態を高空間分解能(70nm)で観測するオペランド顕微X線光電子分光が確立されている。今回,表面電子捕獲の機構を解明するため,GaN-HEMTのオペランド顕微X線光電子分光観察を行ない,得られた結果による推論に基づき,デバイス・シミュレーターを組み合わせて解析した。その結果,表面電子捕獲が起こっている領域と表面捕獲電子密度の定量分析に成功した。
さらに,GaN表面の表面電子捕獲を低減すると推測されているSiN表面保護膜の効果についても,オペランド顕微X線光電子分光を用いて研究した結果,デバイス・シミュレーションとの組み合わせにより,表面電子捕獲の定量分析に成功した。その結果,SiNに比して,表面電子捕獲量が低減し,また,ゲート電極近傍での表面電子捕獲の増大が見られなかった。
研究グループは今後,さらに,デバイス特性に大きな影響を及ぼす表面電子状態に関して,空間的な電子状態変化だけでなく,時間的変化に関しても研究を行なう予定。この研究は,正式に承認された東北放射光光源計画において利用可能なさらに微細で強力な軟X線ナノビームを用いた産学連携共同研究であり,高輝度軟X線用の東北放射光光源の必要性を強く示すものだとしいてる。