新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は,東京大学,信州大学とともに,世界で初めて,可視光領域で水を分解する窒化タンタル光触媒の開発に成功した(ニュースリリース)。
太陽光の強度のピークは主に可視光領域(400nm~800nm)にあるため,光触媒がこの波長域の光を吸収して水を分解できれば,効率よく太陽光のエネルギーを利用できる。しかし,従来の光触媒は,吸収波長が主として紫外光領域(~400nm)に限られるものが多く,光触媒の吸収波長を長波長化することが課題の一つだった。
今回開発した光触媒は,窒化タンタルから構成される。窒化タンタルは400nmから600nmまでの波長範囲の可視光を吸収し,水を水素と酸素に分解することが可能なバンド構造を有することが判明している。しかし,従来の合成手法では良質な窒化物微粒子の合成が困難で,窒化タンタル光触媒を用いた水分解は実現できていなかった。そこで研究グループは,既存の窒化物合成手法とは異なる原料の選定と合成条件の研究を進めてきた。
今回,複合酸化物(タンタル酸カリウム,KTaO3)微粒子を従来の1/10以下の短時間で窒化することで,複合酸化物微粒子上に単結晶の窒化タンタル微粒子を直接形成し,さらに水素生成反応を促進する助触媒を担持させた。これにより,窒化物微粒子が高品位化して光励起された電子と正孔を水分解反応に有効利用することが可能となり,今回の窒化物微粒子光触媒の開発につながったという。
この光触媒は水中に分散することで,400nmから600nmまでの波長範囲の可視光,および疑似太陽を吸収して水を分解することができる。また,これを基板に固定化すれば,光触媒パネル反応器に組み込んで利用できる。実際に窒化タンタルの光触媒の製造に成功し,水分解が確認できたのはこれが世界で初めて。また,従来検討されてきた方法に比べて1/10以下の短時間での製造が可能で,安価なプロセスの実現が期待できるとする。
研究グループは今後,窒化タンタル光触媒の合成手法の改良や,酸窒化物や酸硫化物などの異なる材料への展開を通じて水分解用微粒子光触媒の機能改良を進め,太陽光を使って製造する水素と,工場などから排出されるCO2を利用して化学品を製造するプロセスの実現に向けた研究開発の加速につなげるとしている。