【インタビュー】精工技研,中国データセンター市場で大型受注を獲得

これまで光通信デバイスの主戦場であったテレコムに加えて,存在感を増しつつあるのがデータセンター市場だ。北米のIT企業による,クラウドやビッグデータをはじめとする新たなWEBサービスは巨大なデータセンターによって支えられており,そこでは収められた数千ものサーバー同士が光ファイバーで繋がれ,超高速で通信を行なっている。

北米に続き,中国でも次々と新たなIT企業が勃興しており,そのスピードとスケールには圧倒されるものがある。その巨大な国内市場を支えるだけでも天文学的な投資が行なわれることは想像に難くなく,市場として魅力的なのは言うまでもない。

精工技研は,この中国市場にいち早く参入することに成功し,最大手のデータセンター事業者等に対して,日本円にして13億円(2018年見通し)の受注を目論む。今回,同社の中国拠点である杭州精工技研有限公司総経理 兼,精工技研取締役光学製品事業部部長の來関明氏に,中国進出に成功した原動力と戦略について話を伺った。

-中国の状況について教えてください。

來関明氏

アメリカにFLAAG(F=Facebook,L=LinkedIn,A=Apple,Amazon,G=Google)に代表される巨大IT企業があるように,中国にはBAT(B=Baidu:バイドゥ(百度),A=Alibaba:アリババ(阿里巴巴),T=Tencent:テンセント(騰訊))があります。テンセントはメッセンジャーアプリのWeChatで有名な会社です。

これらの会社は色々な子会社を展開しています。例えばアリババは中国版ウーバーのようなサービスも展開していて,支払いは同社子会社のアリペイが使えます。オンラインショッピングの会社なので信用会社も立ち上げて,顧客の購買力などをビックデータとして持っています。また,ショップを出している会社に対してはその信用データに基づいて,金融子会社から融資も行なっています。

数年前にはクラウドコンピューティングサービスに参入を表明し,今では中国で一番大きいクラウドコンピューティング企業になりました。Huawei(ファーウェイ)は二番目くらいです。つまり,中国では大手IT企業をはじめとするインターネット関連の需要が非常に増えてきています。

彼らが今までの顧客と違うのは,データセンターを自分たちで保有してしまうところです。アリババだったらアリババ,百度だったら百度が自前のデータセンターを持っています。我々は今回,そういう業界に参入するためにまずは大手顧客を抑え,入り込める状況を作りました。最近,別の大手顧客ともビジネスを始めたところです。これから中小の顧客もどんどん増えてくると期待しています。

LC Uniboot cable assembly

-今回納入することになった製品はどんなものですか

MPOというマルチチャンネル用コネクタケーブルと通常のLCコネクタケーブル,そしてこれらを収容するラックを供給しています。MPOに限って言えば今年は60万端末の売上を目指しています。

これまでは精工技研=高価格というイメージも確かにありましたが,結局,品質を要求すると我々の製品が一番安い,今はそういう位置付けにあると思っています。今回成功したのは,実は中国が品質を重視するようになってきているからです。FTTHの時代は繋がりさえすれば良くても,今のようなクラウドコンピューティングではそうはいかないからです。

MPO Trunk Cable

コネクタケーブルはハイテクではありませんが,入力と出力の要となる重要な部品です。我々は100万個に対して1桁の不良品しか許容していません。データセンターなどで断線したら大変なことになるので,絶対に断線の無い品質が我々の強みでもあり,気を遣っているところでもあります。

入札の時,我々の製品は価格が他より高いと言われたのですが,最終的には一番のシェアを取れました。それは供給能力と,約束した品質をきちんと提供するという,日系企業としての強みが評価されたからです。

「今回,ケーブルアセンブリは自社の研磨機と冶具を使って研磨し,かつ,完成したものはグループ会社の形状測定器で測って製品保証をしてから出荷しています。お客様からすれば安心感を持って使って頂けるという自負はあります。」(光学製品事業部営業課課長 佐藤英明氏)

佐藤英明氏

-会社としてどんな戦略があったのでしょうか

私たちはこれまで技術の高度化に集中してきましたが,やはり完成品の売上も大事にしようということで,精工技研本社 上野社長の「技術を製品に変え,製品を商品に変える」という方針を実践することにしました。それまでは自社製品を売るという意識が強かったのですが,今の市場ではパートナーシップ,あるいは協力企業を纏めていく力が求められます。

日本企業は部品を作る,サポートする,安定生産するのは上手ですが,今の市場ではこれだけではイニシアチブを取れません。部品だけを作って,最終ユーザーと接しないと,技術の先端にはついていけないし,いつのまにか脇役,さらには要らなくなる方向にも行ってしまいかねません。

代表取締役社長 上野昌利氏

我々はもちろん部品を作り続けますが,その一方で部品+αを得るために,エンドユーザーの需要動向も把握したいと考えました。例えばデータセンターやクラウド,5G(第5世代移動通信システム)がどういう物を必要としているかに興味を持ち,それを部品に下ろしていくんです。我々はパートナーと一緒ならこんなこともできる,ということを考えるようになりました。

自社で全部を作るのは大きな会社でも難しいことです。今,成長している会社は自社の良いものをパートナーと一緒に育てています。それを考えると我々はちょうど良いポジションにいます。日本と中国,両方の市場が見えますし,両方に製造拠点もあるからです。

今回のコネクタに限れば,もともと持っていた製品を少しアレンジしただけです。それでも顧客からは,技術力のある会社だと評価されました。逆に我々も顧客の求める開発ができていることを再認識しました。つまり,「製品を商品に変えた」ということです。

例えばデータセンターでは,コネクタそのものだけでなく,こういうボックスにして欲しいとか,コネクタの位置をこういう風に付けてくれとか。作ってないのは知っているけど,これも揃えて持って来て欲しい,納期が一週間しかないが何とかしてほしい。そういう需要が出てきます。今回は部品を外部から調達し,自分たちでケーブルアセンブリして提供する。それがうまくいった一例です。こうした経験を積み重ねて,ビジネスを大きくしていこうとしています。

-今後の中国市場をどう見ていますか

今後一番大きな需要が見込めるのは専用のデータセンターです。例えば医療情報サービスを全部クラウド化しようとすると,各都市に大きなデータセンターが必要になります。中国には100万人都市が120以上ありますが,それらを大きなデータセンターで繋ぐことが政府主導で行なわれます。それから公安局。中国では街頭にカメラがたくさんあって,交通違反を取締まったり,画像データと信号とを連動させて市内の交通をスムーズにしたりしています。そのデータは全部データセンターに集められ,計算されます。IT企業の一般的なデータセンターの他に,こうした医療専用,公安専用,あるいは銀行専用のデータセンターが作られるのです。

こうした場所でファイバーに換わる通信インフラはこれからもありません。MPOコネクタはプラスチック製なので環境面からセラミックスやガラスに換わる可能性はありますが,ファイバー自体が使われなくなることは無いでしょうし,コネクタも形を変えてずっと生き残る重要な基幹部品であると思っています。

-現在注目している技術はありますか

5Gですね。中国ではZTEやHuaweiの開発がかなり進んでいて米国企業が追い越されるのではと懸念を示すほどです。サムスンも最近,大規模な投資を発表しましたが,それも5G向け半導体のものです。当社の社長からも5Gに使われる光学製品は何かと聞かれています。5Gはコネクタ以外に,様々な展開可能性を秘めています。現在は,4G携帯の基地局のトランシーバーは10ギガの通信モジュールが主ですが,5Gになると容量と反応速度が格段に上がり,100ギガ以上の短距離のパラレル伝送になります。その中で我々は何ができるのか,研究しています。

◇ありがとうございました。

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