NTT,メカニカル振動子を用いて核磁気共鳴を制御

日本電信電話(NTT)と産業技術総合研究所(産総研)は共同で,微細なメカニカル振動子を用いて固体中の核磁気共鳴現象を制御することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

原子核の自転運動である核スピンは,磁場中に置かれると固有の歳差運動をする。この歳差運動は,長時間にわたって状態を維持できる性質を利用して量子情報を記録する量子メモリや,磁場に敏感である性質を利用した磁場センサなど,様々な素子への応用面で注目されている。

一般に,核スピンを操作する方法としては,磁場中で歳差運動に共鳴する電磁波を照射する核磁気共鳴法が用いられる。しかし,一様に広がる磁場と空中を容易に伝搬してしまう電磁波を用いる従来の手法では,広い領域で同時に核磁気共鳴を引き起こしてしまうため,多数の素子を小さなチップに配置した集積回路において,所望の素子の核スピンを個別に操作することが困難だった。

今回,核スピンを個別に操作するために,核磁気共鳴の周波数が固体中のひずみに対して敏感に変化するという性質を利用した。材料中の所望の位置に人為的にひずみを発生させることで,核磁気共鳴を素子ごとに制御することが実現可能になる。

局所的なひずみを発生するために,ナノ加工技術を駆使して微細なメカニカル振動子を作製し,構造が振動するときに発生する周期的なひずみによる核磁気共鳴の制御を試みた。その結果,振動による共鳴周波数の変調や,振動ひずみと電磁波が組み合わさって引き起こされる新たな核磁気共鳴(サイドバンド共鳴)を世界で初めて観測した。

振動子は両もち梁構造を有し,圧電半導体であるガリウムヒ素(GaAs)を微細加工することにより作製した。圧電効果を用いてこの構造を電気的に振動させて梁構造の根元の部分に周期的なひずみを発生させると,このひずみが発生している箇所の材料中に含まれる核スピンの振る舞いを変化させることができる。

実験では,周期ひずみによる磁気共鳴周波数の変調に世界で初めて成功した他,梁構造の振動周波数だけずれたところに共鳴ピークが現れるサイドバンド共鳴と呼ばれる新しい核磁気共鳴現象の観測に成功した。観測した実験結果は,いずれもひずみと核スピンの相互作用モデルに基づいた理論計算の結果とよく一致していることから,振動子によって発生させたひずみによる効果であることが実証された。

メカニカル振動子は,トランジスタなどと同様に半導体ナノ加工技術によって作製されるため,半導体チップへの組み込みが可能。この技術を用いて複数の素子における核スピンの選択的制御を実現し,量子メモリや量子センサなどの集積化に向けたプラットフォームとしての活用を目指すとしている。

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