東京大学,高エネルギー加速器研究機構,ATLAS 日本グループは,これまで実験的に観測が困難だった「ヒッグス粒子がボトムクォーク対へ崩壊した事象」を5σ(シグマ)以上の確度で観測した(ニュースリリース)。
素粒子の標準理論では,ヒッグス粒子は約60%の確率でボトムクォーク対へと崩壊し,最も生成されやすい信号となっている。しかし,実験的に観測が非常に困難なためLHC-ATLAS実験計画当初は観測不可能だと思われていた。
2015年度に従来の倍の衝突エネルギーに増強されたLHC加速器は,予想以上の順調な運転により多くのデータが蓄積された。また,機械学習技術を応用した新しい研究を行なうことで,実験的な困難を克服し,確度5.4σの有意水準でヒッグス粒子とボトムクォーク対に崩壊している信号の観測に成功した。そして,現在の精度で,観測値が標準理論の予想値と一致しているということも明らかにした。
この成果によって,ヒッグス粒子がボトムクォークと結合する新しい相互作用(湯川結合)が存在することが実験的に初めて確認されたことは,物質を構成する素粒子であるフェルミ粒子の質量起源やヒッグス機構の全容解明への大きなマイルストーンだという。
また,以前の研究成果を踏まえ,全ての第3世代フェルミ粒子とヒッグス粒子の反応やそれによる質量生成機構が解明されたことになる。誤差の範囲内で,物質を形成する素粒子や力を伝える素粒子の両方が,同じヒッグス機構によって質量を獲得していることがわかった。これにより,ヒッグス粒子は発見,質量の起源の解明と2つ目の節目を迎えたことになる。
研究グループは今後,第2世代フェルミ粒子との結合観測も目指し,素粒子物理学の大きな謎の一つである「素粒子の世代」の解明へむけて研究を進めていく。また,これまで観測された結合の強さの測定精度を向上させ,標準理論の綻びを探していくとしている。