理化学研究所,日本原子力研究開発機構,総合科学研究機構の研究グループは,物質中の微小な磁気渦(磁気スキルミオン)が生成・消滅する過程を,100分の1秒単位の時間分解能で観測することに成功した(ニュースリリース)。
磁気スキルミオンとは,磁性体における磁気モーメント(物質中の個々の原子が持つ小さな棒磁石)が渦状に配列したもの。非常にわずかな電流を流すことで駆動できることから,磁気スキルミオンを情報記憶媒体として用いる新しい磁気メモリの開発などが提案されている。
これまでは,中性子ビームを数秒から数分照射し続け,時間的に平均化されたパターンを観測することがほとんどで,磁気スキルミオンが生成・消滅する瞬間の様子など,非常に短い時間で起こっている過渡現象を観測することは不可能だった。
研究グループはこの過程を直接観測するため,茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子小角・広角散乱装置「大観」において,パルス中性子ビームを使った「ストロボスコピック中性子小角散乱測定」を行なった。
研究グループは,パルス中性子と試料の温度変化を同期させる計測システムを構築し,磁気スキルミオンが形成され三角格子を組んだことに相当する六角形の散乱パターンが生じる過程を,パルス中性子が試料に当たる瞬間ごとに“パラパラ漫画”のように記録することに成功した。
実験では,磁気スキルミオンが通常の条件で存在する温度領域(-246℃~-244℃)を横切るように-238℃から-253℃までの間を50℃毎秒で急速に試料を冷却しながら観測を行なったところ,常磁性状態(-244℃以上で,磁気モーメントがバラバラな方向を向いた状態)から磁気スキルミオンが生成される過程は,この速い温度変化にも追従して起こることが分かった。
また,一度できた磁気スキルミオンは壊れにくく,速い温度変化の下では-246℃を下回っても消滅することなく,過冷却状態となって残ることが分かった。さらに,非常に速い温度変化の中でも磁気スキルミオン格子の間隔やそろい具合が刻々と変化している様子が観測された。
研究によって,磁気スキルミオンの生成と過冷却状態形成の過程が明らかになり,スキルミオン自身の基礎的な性質の理解と情報記憶媒体への応用の両面にとって,大きな役割を果たすことが期待されるとしている。