東京工業大学,弘前大学らの研究グループは,有機半導体のp-n接合を基板面方向に形成したところ,特異な酸化力を持つ領域が形成されることを見出した(ニュースリリース)。
現在,実用的に用いられている酸化チタンを用いた光触媒は,紫外線にしか応答しない。そのため,可視光で応答する光触媒の研究が盛んに行なわれており,さまざまな遷移金属の複合化が検討されている。一方で,有機材料は可視光応答化が容易であるが不安定という理由から,これまで,水中や空気中で光触媒として働かせることは困難だった。
研究グループでは,フタロシアニンという,有機材料を用いたp型半導体とn型半導体の接合が,光触媒として利用できることを発見し,この10年以上検討を進めている。しかし,このフタロシアニンp-n接合体は,吸収する光子エネルギーにくらべて,利用できる酸化還元力が小さいという欠点があり,これは太陽電池のp-n接合体でも同様だった。
通常,太陽電池などでは,p-n接合は基板面に垂直方向に形成させていく。今回取り上げたフタロシアニン(p型)とペリレン誘導体(n型)の接合体は30年前に開発された,初めてのp-n接合型有機薄膜太陽電池の類似体。これらのp-n接合は基板と垂直方向に形成されるが,研究ではn型の上に完全にp型を積層するのではなく,部分的にp型を積層したテラス型p-n接合などの方法で基板面方向に形成させ,これをケルビン力プローブ顕微鏡により表面電位の表面内分布を計測した。
すると,これまで見られなかった表面電位が正である領域が観察された。なお,基板の材料を変えたり,n型半導体材料をフラーレンに変えても,同様のプラス側にシフトした表面電位の極大が観察されたという。
詳しい機構は未だ不明としながらも,テラス型p-n接合領域を積極的に多くしたデバイスに対して,光照射した際の酸化反応を計測すると,通常のp-n接合体よりも酸化力が向上することが明らかとなった。また,同様のテラス構造を高分子膜型の光触媒として用いると,酢酸を酸化してCO2を発生させる反応の外部量子効率が,620nmの赤色光に対し,3.2%から5.1%に向上したとする。
今回の従来より2桁もサイズアップして作り込んだp-n接合は,特殊な分子群を用いることなく,しかも化学構造はそのままに酸化力を向上させることができた。この成果は,新しい光触媒,太陽電池の設計法として有用だとしている。