九大,高強度近赤外OLEDを実現する原理実証に成功

九州大学の研究グループは,励起子生成効率100%以上を示す有機EL素子(OLED)の開発に成功した(ニュースリリース)。

OLEDで電荷再結合により生成する励起子には,「一重項励起子」と「三重項励起子」という,スピン多重度の異なる励起子が存在し,OLEDではこれらがスピン統計則により1:3の割合で生成することが知られている。

すなわち,電流励起により生成するスピン多重度の異なる励起子を発光として利用することが,OLEDの発光量子効率を向上させる鍵となる。これまでにほぼ100%に達する励起子生成効率が実現され,これが理論限界値であるとされてきた。

研究では,「OLEDにおける励起子生成効率の理論限界を突破する」ことを研究目的とし,一重項励起子開裂過程に着目した。一重項励起子開裂とは,「1つ」の一重項励起子が基底状態にある分子と相互作用することで,「2つ」の三重項励起子が生成される電子遷移過程。近年,有機光電変換素子の研究分野で研究がなされ,100%を超える光電変換量子効率が実現されるなど,注目を集めている。

光電変換素子と同様に,一重項励起子開裂を利用することで,OLEDにおいても理論限界を超える励起子生成・利用効率が得られると期待されるが,一重項励起子開裂を利用したOLEDに関する研究例は皆無だった。

研究では,効率的な一重項励起子開裂を発生することがすでに判明しているルブレン分子をOLEDのホスト材料,近赤外発光を示すエルビウム錯体を発光ドーパントとしたOLEDにおいて,一重項励起子開裂を経由して生成された三重項励起子を,エルビウム錯体からの近赤外EL発光として利用できることを世界で初めて実証した。

また,一重項励起子開裂が発生しない有機分子を用いた試料と比較し,近赤外発光強度がより増強されること,および近赤外強度の磁場応答性などの解析から,ルブレン分子を用いた試料での励起子生成効率が,光励起の場合108.5%,電流励起の場合においても100.8%に達していることを明らかにした。

この成果により,特に近赤外OLEDの高輝度・高強度化の実現が可能となり,センサー用の光源や通信用光源など新しいアプリケーションを開拓できるとしている。現時点では,近赤外発光色素自身の発光効率が極めて低く,十分な発光強度を得られていないが,今後,詳細な物性解析および新たな分子開発を進め,励起子生成効率と内部EL量子効率が200%を示すOLEDの実現を目指していく。

また,研究の提案に基づく近赤外OLEDの実用化を指向して,有機光エレクトロニクス実用化開発センター(i3-OPERA)などとの連携により,材料開発・デバイス開発・プロセス開発を統合し,高効率で耐久性のある近赤外OLEDを実現していくとしている。

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