名古屋工業大学とイスラエル工科大学らの研究グループは,これまでに全く知られていなかった光応答性タンパク質・ロドプシンを発見し,ヘリオロドプシンと名付けた(ニュースリリース)。
ロドプシンはヒトの目の中で視覚を担う膜タンパク質の1つで,光を認識し,視神経へ信号を伝えるための初期反応を担っている。細菌などの微生物にもロドプシンは存在し,さまざまな機能を持つ。微生物由来のロドプシンのうち,イオン輸送ロドプシンを動物の脳神経細胞に発現させ,神経興奮や抑制を光で制御することによって動物の行動を操作するオプトジェネティクス(光遺伝学)が開発されている。
ロドプシンは,微生物に由来するタイプ1ロドプシン,動物に由来するタイプ2ロドプシンと分類できる。新しいロドプシンは必ずタイプ1かタイプ2に分類され,地球上にはこの2つしか存在しないと考えられていたが,イスラエル最大のガリラヤ湖に生息する微生物の遺伝子を解析し,そのうちロドプシンと考えられる遺伝子を解析したところ,アミノ酸配列がタイプ1ともタイプ2とも大きく異なっていることが分かった。
この新しいロドプシンの性質を徹底的に調べた結果,新しいロドプシンは,アミノ酸配列が全く異なっているにも関わらず,タイプ1ロドプシンと同じ形のレチナール分子を結合すること,光を吸収すると異性化反応・プロトン移動反応といったよく似た反応過程を示すことが分かった。
一方,タイプ1ロドプシンに特徴的なイオンを輸送する性質はなく,光反応サイクルが遅いことからこのロドプシンは光情報伝達に関わるものと推測された。実際,最後に生成する中間体では大きくタンパク質が変形しており,これが信号伝達をもたらすことが示唆されるという。
この研究により発見されたロドプシン遺伝子をデータベースと照合してみると,500種類を超える類似タンパク質が見つかった。その生物種は古細菌,真正細菌,藻類などの真核生物から巨大ウイルスにまで見つかっている。研究グループは,第3のロドプシンとも言うべきこのタンパク質群をヘリオロドプシンと名付けた。
今回のヘリオロドプシンの発見により,地球上で生物が行なっている光利用戦略が新たに存在することが明らかになった。しかしながら,ヘリオロドプシンの機能が解明されたわけではない。ヘリオロドプシンは反応性が遅いことから情報伝達に働いていると考えられているが,ヒトの目のロドプシンが活性化する三量体Gタンパク質のようなパートナーとなるタンパク質探しは始まったばかりだという。
またヘリオロドプシンを動物細胞でつくらせた場合,どのような振る舞いをするのか全く分かっていないが,ヘリオロドプシンはオプトジェネティクスのツールとしても新しい展開をもたらす可能性があるとしている。