早稲田大学,大阪大学,静岡大学らの研究グループは産業技術総合研究所と共同で,半導体集積回路の微細加工技術を応用した,体温で発電する高出力密度の熱電発電素子の開発に成功した(ニュースリリース)。
物質に温度差をつけると起電力が生じるゼーベック効果を利用した熱電発電は,2000年代に入って高い発電効率を可能にする新物質が次々に開発された。シリコンも,ナノメートルサイズの太さのワイヤ形状(ナノワイヤ)にすることで高い発電効率を実現できることが分かっており,現在,シリコンの微細加工技術を使った小さな熱電発電素子の開発が世界中で行なわれている。
シリコンのナノワイヤで高効率の熱電発電をさせるには,大きな温度差をナノワイヤ内に維持する必要がある。従来は,ナノワイヤを長くして熱抵抗を大きくし,熱がナノワイヤの周辺に漏れないようにシリコン基板に空洞を設けてナノワイヤを空中に架橋させる構造が採用されてきた。しかし,シリコン基板をくり抜くと機械的な強度が低下するのに加え,高密度で素子を集積できない,製造コストが高くなるなどの課題があった。
これに対し,研究グループが発明したシリコンのナノワイヤ型熱電発電素子では,基板表面から裏面への適切な熱流制御によって,空中架橋せずに大きな温度差を短いナノワイヤ中に発生させることができる。この方式であれば,ナノワイヤを短くするほど単位面積あたりから生み出せる電力が増えることがシミュレーションで予測された。また,半導体集積回路と同じ方法で作製できるため,コストを大幅に下げることもできる。
研究グループは液浸ArF露光装置を用いて,シリコンのナノワイヤを用いた熱電発電素子を作製し,印加温度差と発電量の関係を様々な長さのナノワイヤで測定した。裏面への排熱効率を向上させてナノワイヤの内の温度差を維持するため,通常750μmの厚さがある大口径シリコン基板を研磨して50μmまで薄くした。
その結果,シミュレーション通り,ナノワイヤを短くするほど発電量が上昇することを確認した。長さ250nmのナノワイヤを用いた場合,空中架橋される従来のシリコンナノワイヤ熱電発電素子と同水準の発電密度に達することを確認した。シリコン基板を薄くすることでさらに発電密度が10倍に増え,わずか5℃の温度差から,1cm2の面積あたり12mWの電力が生み出せることが分かった。
この発電性能は,体温と大気の間の温度差など,身の回りにある小さな温度差をエネルギー源として,センサの駆動と間欠的な無線通信を可能にする電力であり,今後のIoT社会を支える環境電源技術になるとしている。