理化学研究所(理研),京都大学らの研究グループは,光に応答するタンパク質がフェムト秒からピコ秒という超高速で反応する過程をX線自由電子レーザー(XFEL)によって,原子の動きまで克明に動画として捉えることに成功した(ニュースリリース)。
ヒトの視覚や微生物のイオン輸送に関わる光応答タンパク質は,光をキャッチするためのレチナールを含んでおり,高効率かつ立体選択的に構造を変化させて機能を発現することが知られている。
しかし,その光化学反応はフェムト秒からピコ秒という超高速で起こるため,どのように反応し構造変化を起こすのかを知るのに必要な原子レベルの動きを捉えることは非常に困難だった。
研究グループは,米国のXFEL施設LCLSにて,連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)法とポンプ・プローブ法を組み合わせた手法を用いて実験を行なった。バクテリオロドプシンの結晶に光を照射して反応を開始させた後,フェムト秒から10ピコ秒にかけて測定を行ない,時間ごとに変わっていくタンパク質の構造変化を動画撮影した。撮影した中間体の構造は,1.5Åという高い空間分解能で決定することに成功した。
得られたバクテリオロドプシンの光反応中間体構造を時間経過に沿って見ていくと,光を受けてから200フェムト秒以内にレチナールの電荷分布が変化し,わずかにねじれが形成された。続いて500フェムト秒後には,レチナールがトランス型からシス型へと異性化を始め,3ピコ秒後にはシス型に変化した様子が観察された。
また,光受容から200フェムト秒後以内に,レチナール上のシッフ塩基に水素結合している水分子,周辺のアスパラギン酸残基が,レチナールの変化に応じて動くことも分かった。今回の成果は,タンパク質が光に反応して,超高速で水分子やアミノ酸残基を含めて刻々と変化していく様子を,原子の動きまで捉えた初めての例。
この成果は,ヒトの視覚に関与するロドプシンや光遺伝学に用いられるチャネルロドプシンなど,他のレチナールタンパク質における光化学反応初期段階を理解する上で重要な知見となる。また,この成果で用いられた手法は,光で反応する他の種類のタンパク質の構造変化を捉え,仕組みの解明に貢献するものだとしている。