東京工業大学と仏パリ第7大学は共同で,有機半導体材料と鉄錯体から成る光触媒に可視光を照射すると,二酸化炭素(CO2)が有用な一酸化炭素(CO)へ選択的に還元されることを発見した(ニュースリリース)。
近年,金属錯体や半導体を光触媒として用いてCO2を還元資源化する人工光合成の開発が世界中で行なわれている。この技術が実用化されれば,CO2を,太陽光をエネルギー源にして有用な炭素資源へと変換できるようになる。
これまでに報告されている高い活性を示す光触媒には,ルテニウムやレニウム,タンタルなどの貴金属や稀少金属を含む錯体や無機半導体が用いられてきた。しかしながら,莫大なCO2量を考えると,地球上に多量に存在する元素だけで構成される新たな光触媒を構築する必要があった。
研究グループは,炭素と窒素から構成される有機半導体カーボンナイトライドを鉄錯体と組み合わせて光触媒として用いることで,常温常圧でCO2をCOへと高効率に還元できることを見いだした。この光触媒反応は,太陽光の波長帯でも主成分である可視光を照射することで進行する。
カーボンナイトライドが可視光を吸収し,還元剤から触媒である鉄錯体への電子の移動を駆動する。その電子を用いて鉄錯体はCO2をCOへと還元する。性能の指標となるCO生成におけるターンオーバー数,外部量子収率,CO2還元の選択率は,それぞれ155,4.2%,99%に達した。これらの値は,貴金属や稀少金属錯体を用いた場合とほぼ同程度であり,すでに報告されている卑金属や有機分子を用いた光触媒と比べて10倍以上高い。
今回の研究から,炭素,窒素,鉄といった地球上に多量に存在する材料群を用いても,太陽光をエネルギー源としたCO2還元資源化を高効率に達成できることを初めて実証したとする。今後は,光触媒としての機能をさらに向上させるとともに,地球上に多量に存在し安価な水を還元剤として用いることのできる酸化光触媒との融合を達成することが課題となるとしている。