NHK放送技術研究は,立体テレビの表示デバイスとして期待される光フェーズドアレーデバイスを試作し,NHK技研公開2018にて展示した。NHKでは8Kのさらなる次世代テレビとして立体テレビを想定し開発を進めているが,その方法としてインテグラル方式と呼ばれる技術を提案している。
しかし,この方式ではディスプレーとレンズアレーがそれぞれ必要で,さらに3D映像の解像度はそれらの解像度に依存するため,高解像の3D映像を得るためにはデバイスが大型化するという問題があった(ちなみに今回の技研公開で展示した立体テレビの解像度は,4Kプロジェクターを14台による映像を768×432のレンズアレーで表示しており,350視点,解像度30万画素となっている)。
そこでNHK技研では,3D映像の高解像度化を進めるため,光ビームの方向を自在に制御できる光フェーズドアレーデバイスを開発している。これは,複数の光導波路チャンネルを通過する光の位相を制御することで,出力光ビームの方向を制御するというもの。今回は位相制御部電気光学ポリマーによる,光偏向動作を確認した。
具体的には,幅150μmの制御電極に8本の電気光学ポリマーによる導波路を作製した。この導波路は,アクリルに色素を加えた有機材料からできている。これを出射部で4μmピッチに束ね,制御電極に電圧をかけることで約20度の光偏向動作を確認した。動作速度は100kHzだが,理論的には100GHzで動作可能だとする。
このデバイスを集積化し立体テレビとすれば,高速動作により光線数が増え,遠景・近景でのボケ低減することが期待できるという。デモでは伝搬光の位相を変化させることで,光ビームを左右に振ったり収束させたりする様子を見せた。
今後の課題としてNHK技研では,現在8チャンネルの導波路をさらに多チャンネル化することで,より高精細な映像を目指すとともに,出射部のピッチを狭くして光ビームの偏向角をより大きくしたいとしている。さらには,縦方向への位相変化も行なうことで,立体テレビ向け表示デバイスとしての基本的な性能を得る計画だ。