理化学研究所(理研),独ルール大学ボーフム校の研究グループは,三つの電子スピン量子ビットを擁する半導体量子ドットデバイスにおいて,隣り合わない(非隣接)量子ビット間に「量子もつれ状態」を生成・観測することに成功した(ニュースリリース)。
量子コンピューターはさまざまな方式の研究が進められているが,特に半導体をベースとする電子スピン量子コンピュータ(半導体量子コンピュータ)は既存産業の集積回路技術と相性が良く,大規模量子コンピューティングデバイスの作製に適していると考えられている。
一方で半導体量子コンピュータの実現には,複数の量子ビットの間で量子力学的な相関がある状態(量子もつれ状態)を効率良く生成することが鍵となる。
今回研究グループは,高品質なGaAs/AlGaAs(砒化ガリウム/砒化アルミニウムガリウム)ヘテロ接合基板上に,電子線リソグラフィーによる微細加工を施すことで三重量子ドット構造を形成した。
そして,半導体量子ドット構造中に三つの電子スピン量子ビットを形成し,隣り合わないため直接相互作用のない量子ビット間で量子もつれ状態を生成することに成功した。
さらに,量子ドット間のエネルギー差を電気的に制御することにより,隣接量子ビット同士の量子もつれ状態を,その品質を保ったまま非隣接量子ビット間の量子もつれ状態に変換した。通常,量子もつれ状態は環境の雑音に対して非常に脆弱だが,逆に量子もつれ状態の生成効率を向上させるために雑音が利用できることも発見した。
この研究成果は,半導体量子ドットを用いた量子コンピューターの大規模化に向けた基本設計の道筋を示したものだとしている。