東京工業大学と中央大学は共同で,鉛とチタンからなる酸フッ化物が可視光照射下で光触媒として機能することを発見した(ニュースリリース)。
太陽光に多く含まれる可視光を利用して,水や二酸化炭素を水素やギ酸などの有用物質に変換する光触媒は,30年以上も前から国内外で精力的に研究されている。このような可視光応答型光触媒として,同一化合物内に複数の陰イオン(アニオン)種が含まれる“複合アニオン化合物”が注目されている。
可視光に応答する複合アニオン光触媒の研究対象は,これまで酸窒化物,酸硫化物,酸ハロゲン化物(Cl=塩素,Br=臭素,I=ヨウ素)にほぼ限られており,酸素とフッ素をアニオン種として含む酸フッ化物はほとんど検討されてこなかった。
研究グループは,酸フッ化物Pb2Ti2O5.4F1.2(鉛・チタン・酸素・フッ素)が可視光応答可能な狭いバンドギャップを特異的に有し,安定な可視光応答型光触媒となることを見出した。
結晶構造解析の結果,Pb2Ti2O5.4F1.2はアニオン複合化により酸化物では安定的に得られないパイロクロア構造をとり,その構造の特徴として酸素―鉛結合距離が特異的に短くなっていることが明らかになった。
さらには,第一原理計算によるバンド構造解析により,同材料の価電子帯において酸素成分と鉛成分との混ざり合いが顕著なことを突き止め,この酸素―鉛結合がもたらす強い軌道間相互作用がバンドギャップの縮小に寄与していることがわかった。
電気陰性度が最大のフッ素を酸化物に導入しても一般的にはバンドギャップの縮小は期待できない。このため,これまでアニオン種として酸素とフッ素を含む酸フッ化物は可視光応答型光触媒の候補とはなりえなかった。
今回の“常識はずれ”な発見は,アニオン複合化で安定化されたパイロクロア構造中において,イオン間の相互作用が強く働いたことが起源となっているという。
同様の視点に立ったバンドギャップ縮小・光触媒機能の創出は,他の物質群でも応用可能であり,今回の成果は太陽光エネルギー変換を指向した光触媒開発に新たな設計指針を与えるものだとしている。