東北大ら,長距離核スピン偏極の観測に成功

東北大学,独レーゲンスブルク大学の研究グループは共同で,強磁性半導体(Ga,Mn)As を用いた横型スピン注入素子において,弱磁場下で半導体GaAsチャネル中の核スピン偏極を観測することに成功し,核スピンが20μmの長距離にわたって偏極していることを明らかにした(ニュースリリース)。

スピントロニクスデバイスの開発において,GaAsをはじめとするIII-V族半導体は,電子スピンのゲート電界制御が可能であり,かつ直接遷移型のエネルギーギャップを有することから,スピントランジスタのチャネル材料やスピン発光ダイオードの候補物質として注目されている。

これらの物質においては,GaとAs原子が有限の核スピンを有するため,電子スピンとのフリップフロップ過程で核スピンが偏極すると,最大で数テスラに及ぶ核磁場を生み出し,これが電子スピンの寿命を大きく変調させることになる。よって核磁場とスピン流の相互作用を直接観測しその機構を理解することは,半導体を用いたスピン流デバイス研究開発において重要な課題となっている。

これまで,GaAsを母物質とした薄膜素子では,強磁場下での量子ホール状態や円偏光スピン発光ダイオード素子において,核スピン偏極が調べられてきたが,スピントランジスタの基本構成要素である微小な横型スピン注入素子のチャネル中における核スピン偏極の空間的な広がりとスピン流に及ぼす影響に関する知見はなかった。

研究グループは今回,横型スピン注入素子を作製した。スピン検出端子を複数配置しているため,磁気抵抗効果から電子スピンの偏極率の距離依存性を測定することができ,核スピン偏極率やその空間分布をスピン電圧として読み出すことが可能。スピン注入端子から20μm離れた検出端子においてもサテライトピークが観測されていることから,スピン注入源から20μmの長距離まで核スピンが偏極していると考えられる。

また,注入端子から離れるに従い,サテライトピークが弱磁場側にシフトしており,核スピン偏極率(スピン流が感じる核磁場)がスピン流の伝搬に伴って小さくなっていることが分かった。

この研究結果は,半導体横型チャネルにおいて,スピン流と核スピンの相間を明らかにした初めての結果。核スピンは電子スピンと比較して,スピンの情報を長時間にわたり保持できることから,量子情報におけるメモリの役割が期待されている。

研究では,微小なスピン注入素子を用いることで,これまでの量子ホール系やスピン光学素子と比較して,比較的弱磁場かつ電気的に核スピン偏極とその検出に成功した。これによって,スピン流を用いたスピン情報の書き込み・読み出しの基盤技術が確立できたとしている。

この研究で得られたスピン流と核スピンの相互作用に関する知見は,将来の半導体スピントロニクスデバイスへの応用が期待されるもの。

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