奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の研究グループは,生体内で神経を光刺激するための世界最小のワイヤレス型デバイスを開発した(ニュースリリース)。
生命現象を光で操作する技術は光遺伝学(オプトジェネティクス)と呼ばれ,近年飛躍的な発展を遂げている。オプトジェネティクスでは,光を生体内の狙った部位に届けるための多様な技術が提案・実現されている。特に,生体内に埋め込み可能なワイヤレス型光刺激デバイスは,実験動物の負担を減らし,自由に行動させながら脳科学実験を行なえるため,大きな期待が寄せられている。
オプトジェネティクスでは青色による光刺激が特に重要だが,青色光は生体内にほとんど入ってこない。これまで電磁波によるエネルギー伝送を用いた生体埋め込み型光刺激デバイスが報告されているが,電磁波による電力伝送は,デバイスサイズが1mm付近に至ると極端に効率が低下する。これは,電磁波を受信するアンテナのサイズがエネルギー伝送効率に直結するため。
研究グループは,1mmクラスの超小型化のためには,電磁波方式でなく,太陽電池を用いた光電力伝送を利用するほうが合理的であると考え,生体内に届きやすい赤外光を照射し,そこからエネルギーを取り出して蓄積し,青色発光ダイオード(LED)を駆動して神経刺激光を発生させる手法をとった。
具体的には,一般的な集積回路技術であるSi CMOS技術を利用して製造した1.25mm四方,厚さ0.15mmのチップ上に,発電能力がある超小型オンチップ太陽電池17個と,電圧監視・LED 制御回路を集積化した。
汎用技術で製造したCMOSチップに,独自の追加プロセス(加工処理)を施し,高性能のコンデンサチップと青色LEDチップを組み合わせることで,体積約1mm3,重量2.3mgの生体埋め込み対応ワイヤレス型光刺激デバイスを実現した。このデバイスに赤外光を照射すると,0.1~数秒程度の充電時間の後,十分にエネルギーが蓄積された時点で青色の発光が得られる。
この技術により,実験動物の負担を低減し,自由に行動させながら,より自然に近い形でオプトジェネティクス研究を行なうことが期待できる。研究開発のためのツールとして,脳科学・神経科学,ひいては創薬・医療分野の発展につながるとしている。