鳥取大学と徳島大学は共同で,光刺激によるペプチドナノファイバー形成を利用した運動システムの構築に成功した(ニュースリリース)。
赤痢菌・リステリアなどのある種の細菌は,宿主細胞内でアクチンフィラメントを形成することで,細胞内を並進運動することが知られている。このような生物の運動システムを模倣することができれば,微小環境において自律的に働く「分子ロボット」の部品としての応用が期待できる。
研究グループは,開発した光照射によってペプチドナノファイバーを形成する分子システムをジャイアントリポソームに実装することで,リポソーム表面でペプチドナノファイバーが形成され,上記の細菌のように運動が促進されると仮説を立てた。
具体的には,DNAとシート形成ペプチドを異なる光解離アミノ酸で連結したコンジュゲート1と2を開発した。これらは光照射によってペプチド部位が解離し,自己集合してナノファイバーを形成する。各反応段階の速度を追跡した結果,2は1に比べて光解離反応が顕著に速く,それに伴い速やかにペプチドナノファイバーを形成することが明らかとなった。
相補的なDNAの結合を利用して,1および2をジャイアントリポソームの片側の面に導入した。光学顕微鏡による観察を行なったところ,2を修飾したリポソームは,光照射によってその運動が顕著に促進されることが明らかとなった。この効果はリポソーム全面に2を修飾したリポソームでは見られず,局所的なペプチドファイバー形成が運動促進に重要であることが明らかとなった。
2を修飾したリポソームの運動速度は1を修飾したリポソームよりも明らかに速く,光解離速度がリポソームの運動速度に反映されたことが分かった。このことは,化学的な設計によってペプチドナノファイバーの形成速度を変えることで,運動の速度を調整できることを示しているという。
この研究では,細菌のファイバー形成を駆動力とした運動システムを人工的に再現し,光刺激によってリポソームの運動を促進することに初めて成功した。
今回得られた知見は,微小な環境で分子を望みの場所に輸送するための「分子ロボット」の設計指針となるもの。特に,適切な分子設計を施すことで,光照射方向に応じて運動方向が変わる「走光性」を付与することができるとしている。