理化学研究所(理研)は,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」のX線を絞ると同時に波面を制御しながら試料に照射すると,X線のビーム幅よりはるかに細い,回折限界以下の針状の微細構造を形成できることを示した(ニュースリリース)。
通常のレーザー光の波面は平面で,強度はビームの中心で最大となる。これに対し,特殊な光学素子を使うことで,光波が干渉し完全に相殺され,ある点で振幅がゼロ,さらに,この点の周囲に明るいドーナツリング状の強度分布を持った「光渦(ひかりうず)」と呼ばれるらせん階段状の波面を作ることができる。
今回研究グループは,X線の回折限界は可視光や赤外線よりも1桁以上小さいこと,また,高いエネルギーのX線を使うと多くの場合,物体中の侵入長が1μm以上になることから,より細く深い構造体を形成できる可能性があることに注目し,X線光渦ビームによる加工実験を実施した。
X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」から放射されたパルス光を,らせんフレネルゾーンプレートを透過させ,中心強度ゼロでマイクロメートルスケールのドーナツリング状の強度分布を持つ絞られた光渦ビームを試料に照射する実験を行なった。
実験では,絞られたドーナツリング部のパルスエネルギーの平均値が約1.0マイクロジュール,パワー密度が約1015W/cm2の条件で,7.71keVのX線パルスをクロム(Cr)と金(Au)の2元素を交互に積層した5層の薄膜試料表面に照射した。
その結果,アブレーション現象が起こり,絞られたX線ビームの幅よりもはるかに細い針状の微細構造を光渦の中心に形成できることを示した。多層膜試料で観察された針状構造の典型的な高さは0.6μm,幅は0.3μmだった。これは回折限界サイズである1.7μmよりもはるかに細い。
また,XFELパルス照射後の針の領域と照射領域外における元素分布を,走査型電子顕微鏡によるエネルギー分散X線分析を用いて調べた。その結果,針位置において,クロムが著しく増えており,同時に金が大きく欠乏していることを突き止めた。
さらに,アブレーション現象の過程を計算した結果,実験で得られたような針状構造が1ナノ秒以下で生じたと解釈できることが示された。さらに,金のみを積層した試料だと,中心に生じる構造体の高さ/幅の比は圧倒的に小さく,円錐状になること,一方で,今回の条件では,ニッケルなどの軽い元素ではアブレーション現象が生じないことも示された。
X線の回折限界サイズは,光渦が主に利用されてきた可視光や赤外線などの波長領域での回折限界よりも1桁以上小さいことが知られており,X線で今回の微細加工法を実施するのに有利に働く。
また,物質中の元素によるX線の吸収率は原子番号に大きく依存するので,元素に特有のエネルギーのX線を照射して加工効率を上げることや,多層膜を構成する元素の組み合わせや,厚さの調整を行なって,形状などの加工の自由度を上げることが可能と考えられ,高度な微細加工への適応が期待できるとしている。