東大,シート状原子を積層するロボットを開発

東京大学は,グラフェンをはじめとする原子層を,ブロックを積むように自在に積層するシステム「複合原子層作製システム」(2DMMS:Two-dimensional materials manufacturing system)を開発した(ニュースリリース)。

複合原子層(別名:ファンデルワールスヘテロ構造)は,単原子層膜まで薄層化した二次元結晶を,ブロックを積み重ねるように組み立てた分子材料。原子レベルで精密に分子の境界面が制御でき,多様な材料(ディラック電子系・半導体・金属・超伝導体・トポロジカル絶縁体・ワイル半金属)が選択できることから,複合原子層は,既存の材料では実現し得なかった新規物性発現の舞台として期待を集めている。

単層グラフェンの実現以来,高品質な複合原子層は,実験者の手作業による光学顕微鏡探索および,組み立て作業により作製されてきた。中でも組み立て作業は,一度の作業失敗が素子全体の毀損に繋がる問題があった。このため,現実的な時間内で試作できる複合原子層は極めて限られており,13層積み重ねた試料が数日間の手作業により,ようやく実現される状況にあった。

今回,複合原子層の実現性を飛躍的に向上させるため,シリコン基板上に形成された原子層を光学顕微鏡で探索し,積層するシステムを開発した。この装置は窒素ガスで充満された容器の中に構築され,コンピュータープログラムによる遠隔制御が可能となっている。

まず,シリコン基板上に散在する単層グラフェン片を自動探索したところ,1時間あたり,12,000枚の光学顕微鏡写真を解析し,400個の単層グラフェン片の検出に成功した。誤検出率は実用上十分に小さく(<7%),得られた情報は,データーベースに自動記録され,探索終了時には積層に利用できる二次元結晶の位置情報を含むカタログが構築された。

次に,このカタログの中から任意の結晶を選択して組み合わせ,複合原子層を設計した。選択された結晶が載っているシリコン基板をロボットが光学顕微鏡下に搬送し,画像処理により位置を特定された二次元結晶片は,スライドガラス上の有機樹脂上にスタンプを押すように次々と積層されていった。

六方晶窒化ホウ素/グラフェン/六方晶窒化ホウ素の3層構造を3時間に7個作製でき,グラフェンと六方晶窒化ホウ素が交互に29層積み重なった複合原子層を8時間以内に作製することに成功した。

今回開発した複合原子層作製システムは,さまざまな組み合わせの複合原子層を自在に作製するための基盤技術として位置付けられる。研究者を単調な繰り返し作業から解放し,高付加価値作業へシフトさせるためのプラットフォームとして,展開が期待されるとしている。

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