東京大学,産業技術総合研究所(産総研),山形大学は共同で,超微細回路を簡便・高速・大面積に印刷できるスーパーナップ法について,技術の鍵となる,銀ナノ粒子の吸着性とインクの安定性が両立するメカニズムを解明した(ニュースリリース)。
塗布や印刷によりフレキシブルな電子機器を製造するプリンテッドエレクトロニクス技術は,大規模・複雑化した従来のデバイス製造技術を格段に簡易化できる革新技術として期待されている。スーパーナップ法は,線幅1μm以下の銀配線を簡易に印刷できる画期的な印刷技術として,現在,これにもとづく透明で曲げられるタッチパネルセンサーの量産化が進められている。
金属導配線を印刷法で製造するために一昨年開発されたスーパーナップ法は,基材表面に真空紫外光をパターン照射し,その表面を特殊な銀ナノインクで短時間濡らすだけで基材に強く固着し,かつ線幅が1μm以下の,高精細で高品質な銀配線を製造できることが明らかになっている。紙幣の高精細画の印刷などに用いられる既存の高精細印刷法と比べ,その精細度は二十倍以上にも達している。
スーパーナップ法では,インク中に含まれた特殊な銀ナノ粒子が,基材表面に選択的に吸着する新たな仕組みが技術の鍵となっているが,高活性な銀ナノ粒子を大量に含んだインクが,印刷に至る過程で安定なまま保たれる理由は不明だった。
そこで研究では,液体界面近くの微小領域からの散乱光を高感度に捉えることが可能な共焦点DLS法を適用し,インク中の粒子の分散挙動を調べることに初めて成功した。インク中で銀ナノ粒子が凝集するメカニズムを詳しく検討した結果,銀ナノ粒子表面を保護するため,わずかに含まれている脂肪酸の分子鎖の挙動が,銀ナノ粒子の吸着性とインクの安定性を両立させるため,巧みに機能していることが明らかになった。
今後は,基材表面近傍における銀ナノ粒子の挙動をさらに詳しく調べることにより,銀ナノ粒子の表面化学吸着メカニズムの解明を進めていく。さらに以上の理解をもとに,優れたポテンシャルを有する新たな高機能ナノインクの開発と高度印刷技術への展開を推進していくとしている。