理科大ら,限界を超えた膜厚で絶縁体転移を観測

東京理科大学,物質・材料研究機構(NIMS),高エネルギー加速器研究機構らの研究グループは,絶縁体転移が観測される限界とされてきた膜厚の10倍以上の膜厚において,Ca1-xSrxVO3薄膜を金属から絶縁体へ転移させることに成功した(ニュースリリース)。

金属-絶縁体転移に伴う大きな抵抗変化はメモリやセンサーに利用できることから,研究が活発に行なわれている。強相関電子系SrVO3 (SVO) は3次元では金属的な性質を示し,数nm以下まで超薄膜化し,2次元状態に近づけると絶縁体へ転移する。しかし超薄膜は実用的には不向きなため,3次元のより厚い膜において金属-絶縁体転移が発現することが期待されている。

共同研究グループでは,SVOと同様の強相関電子系 CaVO3 (CVO)に着目し,SVOとCVOの固溶体であるCa1-xSrxVO3 (CSVO) 薄膜において,xの値を変え電子相関をコントロールすることで,従来の絶縁体転移に要する膜厚限界を実用上有利な膜厚へと拡大することを目指した。

金属-絶縁体転移を電気抵抗により直接評価したところ,従来限界とされていた膜厚の10倍以上である50nmで,ある組成で絶縁体への転移が観察された。CSVOは厚い膜(バルク),超薄膜問わず絶縁体転移は観測されていないため,今回の絶縁体転移はCaの化学ドーピング以外の寄与が示唆された。

そこでこの絶縁体転移の起源を調べるために,高エネルギー加速器研究機構で軟X線光電子分光測定,大型放射光施設 SPring-8のNIMS専用ビームラインで硬X線光電子分光測定を用いてバナジウムの電子構造を評価した。

その結果,観察された従来の2次元状態で発現したものとは異なる,3次元状態での絶縁体転移は,基板からの歪が引き起こすバナジウムの異常な混合原子価状態が電子-電子相互作用を増大させたことで生じたと考えられる結果となった。よって,バナジウムの混合原子価状態をコントロールできれば,研究物質の実用的な応用に対する可能性が大いに広がることが期待される。

研究グループは今後,今回の研究成果を基に,誘電体やイオン伝導体を利用した抵抗変化メモリ等への応用を目指した実証実験を進める予定だとしている。

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