東京大学と東京医科歯科大学の研究グループは,理化学研究所との共同研究により,マイクロ波単一光子の量子非破壊測定に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
情報は「光子」を媒介として伝達されることが一般的であり,その光子を検出する研究技術開発が盛んに進められている。従来型の光子検出方式は,飛来した光子を検出器で吸収し,そのエネルギーを電気信号に変換するものだった。しかしこの方式では,検出した光子をその後に利用することができないという問題点があった。
そこで,飛来した光子の有無のみを情報として取得し,光子を吸収せずに検出することを可能にする,「量子非破壊測定」と呼ばれる方法が提案された。エネルギーの高い光の領域では単一光子検出技術が発展しており,光共振器中の単一原子を用いた赤外光光子の量子非破壊測定も実現されている。一方,エネルギースケールが小さいマイクロ波光子に関する単一光子検出技術はほぼ未開拓だった。
研究グループは,これまで量子コンピューターの基盤技術として開発してきた超伝導回路上の量子ビット素子を検出器として用いて,マイクロ波単一光子検出技術の研究開発を行なってきた。
研究グループは,入射するマイクロ波単一光子が伝搬するための伝送路(同軸ケーブル)と超伝導量子ビットを,マイクロ波空洞共振器を介して結合させた。まず,超伝導量子ビットの初期状態として,基底状態と励起状態の適切な重ね合わせ状態(「+」状態と呼ぶ)を用意する。
マイクロ波単一光子が飛来し,共振器に反射されると,共振器の内部に置かれた量子ビットの基底状態と励起状態の重ね合わせ状態が変化し,初期状態と直交した状態(「-」状態と呼ぶ)をとる。その直後に,超伝導量子ビットの状態が「+」状態なのか,「-」状態なのかを判別することにより,マイクロ波単一光子の飛来の有無を確認することができる。
この方式では,光子の存在が明らかになる一方で,その光子は反射されて伝搬し続けるので,これを「量子非破壊測定」と呼ぶ。研究グループは,高感度なジョセフソンパラメトリック増幅器を用いることにより,光子の反射によって誘起された量子ビットの状態変化を検知した。これにより,検出効率84%のマイクロ波単一光子検出を実現し,さらに検出された光子が破壊されることなく反射されていることを実験で確認して,量子非破壊測定を世界で初めて実証した。
この研究成果は,超伝導回路上の量子ビット素子間で量子情報をやりとりする量子ネットワーク技術に欠かせないもの。今後,マイクロ波単一光子の伝搬制御や状態操作を自在に行なうための回路コンポーネントを開発していくことで,量子ネットワーク技術が深化し,より大きな規模の量子コンピュータ開発などへ応用されることが期待されるという。
またマイクロ波領域においてこれまで存在しなかった,高い感度と低い暗計数を持つ単一光子検出器は,未知の素粒子の検出などさまざまな計測・センシングへの応用が期待されるとしている。