千葉工業大学と東京大学は,土星最大の衛星タイタンにおける,原始地球大気のヘイズ(有機物のエアロゾル)の生成過程を解明した(ニュースリリース)。
タイタンは,天体全体がオレンジ色の分厚いヘイズで覆われており,太陽からの紫外線や高エネルギー粒子をエネルギー源として,大気中で炭化水素分子が様々な反応を繰り返して重合していることが知られている。このような現象は太古の地球(約25億年前)でも起こったと考えられており,生命の起源となる前駆物質を合成する環境として大きな注目を集めている。またヘイズは太陽光を遮るため,惑星の気候を左右する上でも重要な役割を果たしている。
タイタン大気中でのヘイズの生成過程は,アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)によって1997年から2017年まで行われたカッシーニ・ホイヘンス探査によってある程度理解されてきたが,まだ不明な点も数多く残されている。特に,比較的波長の長い遠紫外線(120–300nm)によってエアロゾルが生成するメカニズムはあまり解明されていなかった。
タイタンでは遠紫外線よりも波長の短い極端紫外線や高エネルギー粒子によって反応が駆動されているが,実は地球では遠紫外線の照射量のほうがはるかに大きいことが知られている。そのため原始地球の気候を理解する上で,遠紫外線による反応メカニズムを調べることが重要だった。
そこで研究グループは,遠紫外線を発生させることができる水素―ヘリウム光源を製作し,タイタンと原始地球の大気組成を模擬したメタンと二酸化炭素の混合気体に照射した。そして生成したエアロゾルの生成率や赤外透過スペクトル,気相分子の質量分析を行なった。その結果,メタンより二酸化炭素が多い大気組成ではエアロゾルの生成率が大きく下がること,生成されたエアロゾル粒子には直鎖状炭化水素に由来する化学結合が多く含まれることがわかった。
さらに実験結果を解析するために,光化学反応を計算する数値モデルを構築し計算したところ,従来想定されてきた低次の炭化水素重合反応よりも,粒子表面でメチルラジカルの付着による不均一反応が卓越することがわかった。
これらの結果から,タイタンの中層大気では不均一反応による粒子の成長が卓越すること,また原始地球では従来の予想よりも有機物エアロゾル層が薄くなる可能性が示唆された。近年,冥王星や太陽系外の惑星でもヘイズ層の存在が確認されており,この研究で得られた知見はそのような還元的な大気を持つ天体にも広く適用できると予想している。