情報通信研究機構(NICT)と産学官53組織がそれぞれ技術や人材,機材を持ち寄り実現した実証実験において,”さっぽろ雪まつり”及びシンガポールからの超高精細8K非圧縮ライブ映像を用いて,複数の国際回線を使った映像の多重配信に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
IPネットワークを介してライブ映像をリアルタイムで遠隔地に送受信する場合,通信経路上の物理的な回線や機器でのデータ喪失が発生すると,映像の乱れや再生停止が発生する。これを避けるためには,バックアップ経路への切替配信では不十分で,複数の通信経路から映像を同時に送信することが必要となる。しかし,データ量が非常に大きく伝送に通信帯域を必要とする8K非圧縮映像の場合,多地点に対して多重配信を行なうことのできる配信ネットワークの実現が必要だった。
今回,複数の長距離国際間回線を使って多重に8K映像を送信することにより,途中での物理的な回線断が発生しても,映像が一切途切れることなく再生できることを実証した。これは,送信側で映像データを複製しながら複数の回線を使って送信し,受信側で到着するデータの重複削除処理をリアルタイムに行なうことによって実現している。
今回,・シンガポール→[香港経由]→日本 ・シンガポール→[米国西海岸経由]→日本 の伝送遅延時間の大きく異なる長距離100Gb/s国際回線2本を用意し,8K非圧縮映像(シンガポール国内での録画映像及びライブ映像)の多重配信を実施した。8K非圧縮(25Gb/s超)の広帯域で遅延時間の大きく異なる多重配信は,IPマルチパス技術の応用によるもの。
さらに,複数の宛先に対して効率的にデータ配信可能なIPマルチキャストを併用することにより,多地点で受信することができ(国内6拠点に受信拠点を設置,うち3拠点で同時受信実施),かつ8K非圧縮の広帯域で遅延時間の大きく異なる経路を使った場合でも実現できることを実証した。
今回の成果により,放送分野での局間や中継地点からの8Kの業務用大容量ライブ映像伝送の現場において,IPネットワークを用いた伝送が実用化できる可能性を示した。また,医療用途などにおいても,リアルタイム性が高い超高精細映像の配信などの応用が期待できる。NICTはこの実験の成功を足掛かりとし,国内での8K映像中継技術開発に向けて各組織が一丸となった技術開発を引き続き支援していく。