早稲田大学の研究グループは,マイクロサイズのメッシュ構造を設けることで従来困難であった硬い酸化インジウムスズ(ITO)透明電極のフレキシブル化に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
フレキシブル電子デバイスの発展に伴い,透明電極のフレキシブル化に対する要求が高まってきている。これまで様々なフレキシブル透明電極が報告されてきたが,他に比べ物性面で優れるITO透明電極のフレキシブル化は困難だった。硬い材料であるITOをフレキシブル化するためには,複雑なプロセスや特殊なナノ構造が必要とされていた。
研究グループは,一般的なフレキシブル基板上に成膜されたITOに,マイクロサイズのメッシュ構造をパターニングするだけで,ITOをフレキシブル化する手法を提案した。シンプルなメッシュ構造の為,フォトリソグラフィとエッチングという簡易なプロセスによって構造を形成できる。
今回提案するメッシュパターンITOでは,以下の2つの原理によりフレキシブル性を実現した。(1)メッシュ構造を設けることで,屈曲時にITOに発生する応力をメッシュ構造開口部(ITOがない箇所)のフレキシブル基板に逃がす機構(2)ITOにクラックが発生した際にメッシュ構造によってクラックの伝搬を抑制する機構。
提案したメッシュパターンITOでは,抵抗値上昇率を通常のITO電極の1/1000以下に抑制することに成功した。また,メッシュ形状の影響について検討を行なうと,従来のフレキシブル電極で多く用いられてきたハチの巣構造が,ITOのフレキシブル化においては最も効果が低いことが判明した。これは,フレキシブル化の原理が,従来のものと異なることに起因するという。
また,メッシュパターンITOをフレキシブル光源として期待されるマイクロ流体有機ELに用いた際の影響についても検討した。電極を屈曲後も,デバイスの安定した駆動が確認された。
このフレキシブル化手法は,材料自体の柔軟性を用いたものではないため,ITOだけに限らず,これまでフレキシブル化が困難であった他の金属酸化物系電極への応用が高く期待される。また,化学・物理的に安定であるITO電極をフレキシブル化できたことで,プロセス上の制限がなくなり新しいフレキシブル電子デバイスの可能性が見込まれるという。
加えて,従来フレキシブル化する段階で必要であった電極材料変更の影響評価が,この研究の成果によって省略でき,関連分野の研究に大きな影響を与える可能性がある。その為,提案する技術は,今後さらに求められるフレキシブル電子デバイス発展の重要な基盤技術となるとしている。