山形大学は,科学技術振興機構(JST)大学発新産業創出プログラム(START)とその事業プロモーターである野村ホールディングスの支援を受け,世界最大クラスの室温金属酸化膜原子層コーティング装置を開発した(ニュースリリース)。
金属酸化物によるコーティング膜は,薬品による腐食,湿気による酸化から対象物を守る保護膜として活用され,電子部品や精密部品の長寿命化をもたらす。半導体製造においては,絶縁膜を形成するために金属酸化物を用いたコーティング技術が活用されている。
この技術は,有機金属ガス(金属材料)を対象物に付着させ,その表面に酸化ガスを吹き付けることで,1nm以下の薄い金属酸化物を形成し,これを繰り返すことでコーティング膜を形成する技術で,原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)と呼ばれる。従来,この処理には,300℃程度の熱処理が必要とされ,熱に弱い部品や精密機械への適用が課題となっていた。
研究グループは,この原子層コーティング技術に,独自に開発したプラズマ技術を活用し,処理温度を室温(25℃)にまで下げることに成功した。これにより,特に熱に弱い部品,例えば有機エレクトロニクス製品にも適用が可能となった。
従来,室温での原子層堆積技術は同大を除いて実用例はなかった。同大では基礎研究用の20㎝程度の狭小容器で開発を進めてきたが,産業での実用化のための装置の大型化と調整研究を進め,小さな電子部品であれは数千個程度,1m規模の長尺な部品を一括処理することが可能になった。装置の大型化により,小規模な生産現場における実用が可能となった。
この技術は,電子部品,有機EL,有機太陽電池の長寿命化,金属精密部品の耐久性向上に貢献することが期待される。同大ではこの技術を,2018年度に起業予定の大学発ベンチャーで実用・応用展開を進めるとしている。