新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は,東京大学,TOTO,三菱ケミカルとともに,人工光合成システムの社会実装に向けて大面積化・低コスト化を実現する光触媒パネル反応器の開発に成功した(ニュースリリース)。
NEDOは,「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」において,太陽エネルギーを利用して光触媒によって水から得られるクリーンな水素と二酸化炭素を原料とした基幹化学品(C2~C4オレフィン)製造プロセスの基盤技術開発に取り組んでいる。
研究開発テーマのうち,光触媒開発については,2021年度末に最終目標の太陽エネルギー変換効率10%を達成すべく,研究開発を進めている。その数値目標達成とともに重要なこととしては,光触媒反応システムの大面積化・低コスト化がある。大面積化・低コスト化は,太陽光を用いた光触媒による水分解反応システムの実現に不可欠であることから,研究開発の段階から検討すべき項目となっている。
今回,水分解反応活性を有するチタン酸ストロンチウム光触媒の粉末をガラス基板上に塗布して固定した光触媒シートを用いて,水深が浅く,強制的な対流も必要としない,新しい水分解用の光触媒パネル反応器を設計,開発した。反応器には,50mm角のチタン酸ストロンチウム光触媒シートが格納され,その上面の紫外光が当たる面は透明な石英の窓となっている。その間から,数ミリメートルの水深で水が供給される仕組み。
ここで用いたチタン酸ストロンチウム光触媒は,太陽光のうち紫外光しか水分解には利用できないが。1種類の光触媒で水分解が可能であるという優れた特長を有する。そのため,塗布により基板上に形成するだけで,光触媒パネルとして機能する。
開発した反応器は,わずか1mmの水深でも,太陽エネルギー変換効率10%の場合の水素生成量である3.7ml(1㎠で,1時間あたり)を支障なく生成できることが分かった。水深を浅くできたことで,既存の反応器より反応器内の水の量を大幅に低減でき,軽量で安価な材料で製造可能な構造なため,大面積化が実現できる可能性があることが分かった。
さらに,1㎡サイズの大型の光触媒パネル反応器を試作し,0.4%の太陽エネルギー変換効率で自然太陽光により水を水素と酸素に分解することも確認できた。
今回の成果は,光触媒を用いた人工光合成システムを社会実装する上で重要な大面積化・低コスト化を実現する光触媒パネル反応器の設計に関する新たな基本原理を示した画期的な成果だとしている。